母の時代からの患者さんが2月25日朝亡くなられた。
秋田県出身、秋田美人の代表の様に美しい方。
シワもシミも殆ど無く、白い髪は薄い紫色に染めておられ、真っ白な肌に頬は薄っすらピンク色。
本当に綺麗好きで、節約家。ティッシュ一枚使うのもきちんと折り畳んで両面を使われてた。若い頃は看護師として活躍され、その後、和裁で家計を助けておられた。
関西の生活の方が長いのにず~ず~弁は健在。このお陰で随分馬鹿にされたと大笑されていた。
鍼灸治療をして40年近く。親子二代で診させて頂いた。
口癖は、「一生死にたくない。働きたい!」だった。そして、「もし死んでも心はずっと続くからね」と、永遠の生命観にたった発言をよくされていた。
私は彼女から愚痴を聞いた事が無い。最後の最後まで「ありがとう、ありがとう」と感謝の言葉しかなかった。
ご自分でもいつ逝かれたか多分わからない程眠るように安らかで、お顔を拝見してその美しさに感動して涙が溢れ出る程だった。
年齢がいく程、心根がその人の顔に出ると言われる。
まさしく綺麗な心のままに生き抜かれた方。
そこにはどれ程の努力と忍耐があったのか、想像して深く合掌させて頂いた。
どの様な人か推し量るひとつに「眼」を挙げたい。
やはり皆、仕事をしている時の眼は真剣でそれなりに魅力を感じる。
昨年、胸がグンと高鳴るような眼の人をメディアで知った。
ニューヨーク在住のアートディレクターの石岡瑛子さん。
彼女の仕事中の眼差しに釘づけになった。年齢を感じさせない魅力を感じた。
それも恐れ多いが、亡き母の雰囲気そのままで、特に眼差しがそっくりだった。
一度、ニューヨークに行く機会があれば訪ねて行きたいと思った程、印象に残る方だった。
先月末、彼女が73歳で膵臓がんで他界された事を知り驚いた。母とほぼ同じ年齢、同じ病だった。妥協を許さない真剣勝負の眼に、その御苦労が偲ばれた。
自分で仕事中の眼は見る事はできない。それでも、患者さんとは眼と眼がしょっ中合う。
患者さんが私を見る眼は、真っ直ぐで真剣そのもの。
いつもそんな正直な眼に応えていきたいと思いながら脈をとらせて頂いてる。
将来、石岡さんのように胸が高鳴ると言ってもらえる様な眼になることを目標に…
ご冥福を心から祈りたい。
今日、見たことの無いような大きな虹が空いっぱいに広がっていた。
ちょうどYさんの告別式に向かう途中のことだった。
昨年9月、Yさんの奥さんから悲壮な声のお電話を頂いた。
医者から癌末期でホスピスへ行くようにとの指示だった。
あれから自宅へ帰って鍼灸治療をしましょうと提案させて頂いた。
この三ヶ月半、どれほど壮絶な命のドラマがあったか、人間の本当の尊さを目の当たりにした毎日だった。
Yさんはどれほど辛くても奥さんを見つめて「かわいそうで、かわいそうで」といつも呟かれていた。
12月半ば頃、今日は先生に質問があります。「もう、死んでもいいですか?」と聞かれた。
私は、「一秒生きることがどれ程貴いことでしょうか。生きて生きて生き抜いて下さい。自分の為に、奥さんの為に。」とお応えした。
Yさんは、「本当に心に染みます。分かりました。」と笑顔を見せて下さった。
Yさんは、痛みもなく、会話もでき、バイタルサインも問題が無かった。亡くなる数日前、私はガン克服宣言をしましょうと提案した。皆んな笑顔になった。
亡くなられる前日、改めて言いたいことがありますと、真顔で「先生、本当にありがとうございました。」と心に刺さる一言を頂いた。
翌朝、静脈瘤が破裂して大量の吐血。なのに、その後、意識もしっかり会話も可能だった。夜、9時半に再度伺ったと同時に、奥さんに手を握られながら本当に静かに眠るように逝かれた。12月30日は忘れられない日になった。
ガンと最後の最後まで闘い抜かれた御姿。だから今日の虹のようにきっとYさんの生命は晴れやかだったのではと感じた。今日のお顔がそう語っていた。
Yさんご夫婦、一緒に走ってくれたスタッフ、そして誰よりもいつもご指導頂き見守って下さった師匠に感謝しかない。
「鍼は魂に響く」とは尊敬する師の言葉。
何という素晴らしい一言か。
今連載してくださっている産経関西の「蓮風の玉手箱」では、九州大学大学院医学研究院教授の外先生との対談が掲載されている。
素晴らしい内容、一言一言に重みを感じる。
ひとりでも多くの人に読んで頂きたい。
今月18日付けには、前立腺癌から骨転移した患者さんの激痛を取られた事が紹介されてた。
実は師の所に研修に行かせて頂いた時、お会いした患者さんだった。
たまたま、その患者さんとブースで2人になった時、彼は私に忘れられない一言を言ってくださった。
「鍼一本で痛みがなくなったんですよ。信じられますか。」と。あの時の声は今も耳から離れない。
歓喜と優しさが魂(心の深い部分)から出たとしか言いようのない一言だった。
師匠が鍼を通じて患者さんの魂の領域まで動かされたのだと感じた瞬間だった。
外先生は西洋医、麻酔・蘇生学分野の第一人者でいらっしゃる。そんな先生が、東洋医学の真髄を極めておられる我が師匠の言葉に唸っておられる。
御二人の対談に大いなる希望の光が見えて私の魂が震えた。
医療に携わる者が一番大切にしないといけない事は何か。
それは、相手の立場に立てるかどうかではないか。
今、癌末期の方の往診治療に行かせて頂いている。
9月から自宅に戻り現在に至るまで、見違える程お元気になられた。
真っ白だった髪と眉は黒くなり、顔色も良く、眼に光が出てきた。
「強い抗癌剤で一気に10年老けたんです」との奥様の言葉が「15年程若返りました」に変わった。
そんな中、訪問医は来る度に、病状をご夫婦に懇切丁寧に説明して帰る。病状をそのまま伝えるのが医者の仕事なのか!
医者の一言一言に生きる気力を失いかけるお二人。
容赦なく追い討ちをかける医者の言葉に怒りが湧いてくる。
私の鍼灸の師匠、藤本蓮風先生は今、ブログの中で「身体と心と魂」について書いて下さっている。
「心」、そしてもっと心の深い部分の「魂」の領域まで、身体はつながっている。
身体しか見ていない医者の何と増えたことか。
身体と心、魂はつながっているとはっきり自覚してこそ、患者さんの前に立つ資格があるのではないかと感じる。