主訴:不眠 50代女性
初診日:平成26年10月中旬
【現病歴】
5年前から夜間尿(1~2回)出現により途中覚醒するが、すぐに眠れていた。
2年前、クッシング症候群発症後から入眠困難が出現、さらに中途覚醒後、眠れなくなる。
ここ2、3ヶ月は尿意を感じる前に、目が覚めるようになった。(一晩に2~3回)
1ヶ月後、旅行予定。それまでに眠れるようになりたいと来院される。
増悪因子:旅行前日(眠ろうと頑張るため、一睡もできないこともある)
仕事前日(30分から1時間眠れず)、旅行中。
緩解因子:眠れなかった翌日のみ疲れてよく眠る。
その他の症状:幼少期から便秘傾向(緊張や環境変化で増悪)、腰痛(重だるい)、下肢のむくみ、耳閉感、耳鳴り、目のかすみや疲れ、運動時の動悸、目のかすみ、立ちくらみ。
体調のことで思い悩むことが多い。
【各種弁証】
八綱弁証:裏(表証無し)・実(心気鬱)・虚(腎虚・血虚)
臓腑経絡弁証:心(不安感、顔面診心白抜け、左心兪実、左後渓実)、
腎(腰痛、夜間尿、耳鳴りと耳閉感、顔面診腎黒、左照海虚、左太溪虚、腹診右大巨虚)
気血津液弁証:気鬱(心配事があると眠れない)、血虚(爪甲淡白、運動時の動悸、目のかすみ、立ちくらみ、眼瞼痙攣)
【治療方針】
患者さんは、真面目で根を詰めて頑張る性格の為、心身共にゆったり出来ず、身体が疲れていても、神経が立って昼寝が全く出来ません。
ご自分の健康状態に対して不安を持ちながらも、心神(精神)のリラックスが少ないので、心気が鬱っしてる状態と思われます。
その様な状態が長く続いている所、年齢的にも腎気の弱りによる夜間尿等が始まる等、下焦の弱りがみられるようになり、益々心気を昂らせ、廻りを悪くした為に不眠になったと考えました。
腎虚や血虚の症状所見はあるものの、昼寝が出来ない事、不眠でも朝から直ぐ行動に移せる事、食欲が有る事、体表観察所見等と併せ、虚もウエートを占めてるものの、実中心に治療をしてみる事にしました。
【証】心気鬱>腎虚
【配穴と効果】
1診目から3診目迄:後渓穴実側。
5診目から8診目迄:太衝穴
9診目:照海穴
【治療効果と考察】
3診目から朝の6時前頃まで眠れるようになってきました。2年前から朝まで眠れなかったのが、このように、直ぐ結果が出るものは、実中心と考えられます。心気の欝滞をとることによって改善され、1ヶ月後に控えていた旅行でも良く眠ることが出来たようです。
しかし、この患者さんは、実中心といっても虚のウエートも大きいため、5診目から虚を補いながら実を瀉す治療法にしました。
このように、実際の臨床では、虚と実が錯雑している場合が殆んどですので、問診と体表観察を併せて、経過を見ながら、その後の陰陽のバランスを考えていくことが大切になります。
また、この患者さんは、当初、鍼灸治療に半信半疑で、お顔も不安気、マイナスな発言が多かったですが、治療する度に徐々に変化がみられました。
不眠の患者さんが非常に多い現代ですが、不眠に対する鍼灸治療の効果は絶大です。
主訴:アトピー性皮膚炎15歳 女性
初診日:平成26年3月初旬
(現病歴)生後4ヶ月で全身にアトピーが発症する。赤味も痒みも酷くステロイドを使用。漢方薬(不明)で皮膚は改善し、幼稚園頃には漢方薬を止めて、ダンスや水泳などのスポーツで若干の痒みが出る程度に治まる。
中学生時、塾等で多忙になり運動をやめた頃から、アトピー再発。顔から酷くなり全身に広がっていく。ステロイド剤で改善するも使用を中止すると悪化。この繰り返しで学校も休みがちになる。病院を点々とし、様々な薬を処方されるが、顔の火照りと共に両頬に黄色い肌汁が出るようになる。薬の効果も実感できず自己中断し、自宅から出れない状態が続く。(下記写真添付)
その他の症状:小さい頃から便秘、痒みのため不眠、冷え逆上せする、無汗(特にアトピー悪化してから)、口内炎が出来やすい、食べても太らない、手足厥冷等。
増悪因子:生理前、冬(1月から3月)、就寝時。緩解因子:生理後。
(治療方針)
問診と多面的体表観察より、
ご両親(特に母親)の体質類似から、幼児期からアトピーを発症。多感な中学生時、様々な原因(ストレス、肥厚甘味の食事、運動不足、無汗、便秘、乾燥季節等々)により、邪熱を身体に溜め、その邪熱が行き場所を失い、弱い皮膚に停滞しアトピーが発症悪化したものと考える。顔面両頬の痂様のアトピーは、湿熱邪によるものとして治療。熱と湿の比重から清熱中心の治療方針とする。
(配穴と効果)
1診目~4診目迄:百会穴(上焦の邪熱を除去)
5診目~12診目迄:後谿穴(心神安定と清熱)
13診目~17診目迄:申脉穴(心神安定と補腎)
18診目~22診目迄:百会と照海穴(清熱と陰液を補う)
23診目~36診目迄:申脉穴(心神安定と補腎)
◆初回は、ダイレクトに百会で心神を安定させながら上焦の邪 熱を除去。腹部全体が緊張状態(特に臍周辺の硬結顕著)に あったが、4回の同治療でかなり緩み、毎日便通 がつくようになる。
◆5診目から、百会より優しく効かせる為、後谿穴にツボを変 更。顔面の赤味が徐々に引いてくる。
◆13診目から、後谿の反応が無くなったと共に、膿状の滲出液 が緩和されてきたため、腎(申脉は膀胱経の裏)を意識しな がら内風を治める為申脉穴に変更。身体全体の痒みで眠れな かったが眠れるようになる。腹診の右梁 門から天枢にかけての邪が薄らぐ。
◆18診目から、受験へのプレッシャー等を考え、百会穴で心神
を安定させながら陰液を補う治療。両頬も綺麗になる。背部督脈上の圧痛取れる。
◆23診目から、再び申脉穴に。乾燥時期のため内風を治める目的で使用。手足が暖かくなる。
(考察)
約2ヶ月、毎日のように来院してくださった事に感謝しています。(現在も継続中)
上記の配穴により着実に陰陽のバランスがとれ、晴れて高校に合格通学できるようになりました。日に日に笑顔が増え、鍼を大信頼してくれているのを感じながら治療できた事が早期の治癒に繋がったと思います。ステロイド等も一切使用していません。素敵な笑顔、表情の変化がここでは見ていただけない事が残念なほどです。
学校など人の多いところや乾燥した場所にいくと逆上せがきつくなりますが、発汗できる季節になれば緩和してくるでしょう。
彼女のアトピー性皮膚炎を通して、鍼の効果の素晴らしさを教えてもらっています。
酷いアトピーで長年苦しんでおられる方の希望になれば嬉しいです。
平成26年3月初診時
同年4月下旬
神戸市在住 男の子 5歳
主訴:ADHD
初診日:H25年8月
(現病歴)
現在、集中力が続かずジット出来ない事や、自分の意思を上手く伝えられないと怒りだしそれを治めるのに30分はかかり、集団生活に支障がある。今年の春、病院にてADHDと診断される。
(既往歴)
1歳の時、風邪から咳が長引き病院で喘息と診断される。3歳ごろ環境が変わり風邪から喘息を発症し入院するようになるが気管支喘息の薬(3種類)を服用してから現在まで発作はおこっていない。
(その他の情報)
・運動すると落ち着く。
・顔や頭に汗をかき易い。
・小便回数1日10回。
・目の下にクマがきつい。
・特に夏に鼻血を出し易くたまに止まりにくい。
・過食、早食い。
・10歳以上歳の離れた兄2人の3人兄弟。
(体表観察情報)
舌診:紅舌、白膩苔、舌尖紅点。
腹診:胃土邪、右肝之相火実、
背候診:右腎兪やや虚、左肝兪から胃兪実熱。
(診断と治療)
初診時、人の話しを注意深く聞けるとても敏感な子だと感じました。2人の歳の離れたお兄さんに囲まれているため、自分にも出来るという自負と、実際にはついていけない葛藤から日常的にイライラが蓄積していったと思われます。体表観察所見と、その他の情報からも、肝気の高ぶりが抗じ熱化したため、金切り声を上げたり、落ち着きが無くなったものと考えました。
治療は、左の肝兪と胃兪というツボに古代鍼(刺さない接触鍼)にて治療し、肝と脾胃の熱を取るようにしました。
(結果)
2診目から信頼してもらえたのか治療も落ち着いて受けてくれ、受け答えもしっかりできました。3診目には「今日はひとりで寝る」と言うほどに。
6診目にはお母さんのママ友にも「落ち着いたね」と感心されるようになり、10月の運動会では最後まで皆と同じように終えることができ喜ばれています。園の先生方も認めるほど落ち着き、同時にお母さんのお顔も本当に穏やかになられました。お母さんの安心はご家族に好循環をもたらします。これからも平和なご家庭でありますように。
川西市在住 10ヶ月 男の子
主訴:アトピー性皮膚炎
初診日:平成25年1月末
(子どもの現病歴)
生後3ヶ月から頚、頭(側頭から後頭部)、両脇部に湿疹が出現し、次第に顔、足、背中、お腹と全身に広がっていく。
発症当時は、ジクジクした滲出液を伴うものだったが、現在は乾燥しカサカサしている。
年末にステロイドを塗るも変化しなかったため、今年になり、強めのステロイド剤を使用する。緩解したもののそのステロイドを中止すると再発する。
自分で掻いて酷いときは出血する。便は1~2日に1回、軟便。二便共に臭いはきつい。
32歳 女性
主訴:潰瘍性大腸炎
初診日:平成25年2月末
(母親の現病歴)
昨年2月(妊娠6ヶ月頃)から、1日3回便通があり毎回、血便が出ていた。排便後はスッキリしていたものの貧血症状有り。妊娠中のため検査もできず様子を見ることに。
妊娠中、チョコレートや生クリーム等の甘いものや、油物を多く摂取していた。
現在も油物を摂ると血便がでる。夏は冷飲や炭酸を飲み悪化。泥状便に白い粘液混じりの血便になってくる。
8月末、無事出産したものの、次の日から腹痛直後に同上の便が何度もあり、貧血のため顔面蒼白に。9月から本格的に検査。潰瘍性大腸炎と診断される。
薬を(1日9錠)を1ヶ月服用し、軟便になる。生クリーム、ラーメン、カレー等の油物を食べたときだけ同上の血便が出る。
既往歴は、小さい頃から、アレルギー性鼻炎、10代顎関節症、20代子宮内膜症。出産してから風邪を引きやすくなったが、風邪を引いても病状の変化はなし。
(診断と治療法)
お子さんは、ご両親の体質、妊娠中の母体の精神状態や飲食物の影響を大きく受けます。母乳中は尚のことです。母親が陽に傾き易い物の摂取過多により、アレルギー体質の親の影響も受け、アトピーが発症したものと考えました。
時々、疳の高い声を発してますので、清熱(熱をとる)し、肝気を下げるように、古代銀鍼で治療を施しました。
お母さんは、問診と体表観察からその原因を考えてみました。脾腎の弱りが、ツボの状態から推察できます。3度目のご出産ということ、胃腸に負担のかかる飲食物の摂取過多、多忙等々が主な原因ではないかと思われます。脾腎は元気を産む大元ですので、他臓に影響を及ぼします。
ツボの状態は、特に右の肺兪中心に心兪の虚(弱り)が大きく、これが、上焦の肺と表裏関係にある下焦の大腸に影響が及んだのではないかと考えました。
(治療結果)
お子さんは、便通が良くなり、治療をする度に顔の赤味が取れていきました。便通と痒みは関係が深く、お通じをつけてあげると、疳の虫も治まり、疳の虫が治まると痒みや赤味も取れていきます。(写真添付)
お子さんとお母さんは心身共に一体不二です。この例も、お母さんが大腸の病、お子さんが皮膚の病です。皮膚は肺と関係が深いですので、肺と大腸は上記の通り表裏関係にあります。
お母さんには、「特にこのお子さんとは色んな面で関係が深いと思いますので、お母さんが良くなればお子さんも良くなりますし、またその反対も考えられますね」とお伝えしました。
その通り、お互いに改善されていきました。お母さんも便通時の腹痛も無くなりました。今では、ご紹介下さった義理のご両親、アトピーの子のお兄ちゃんも来てくださり、ご家族3世代でお体を診させていただいています。
鍼を信頼してくださり心から感謝致します。
初診時
15診目
初診時
15診目
初診時
15診目
西宮市在住 30歳 女性
主訴:亜昏迷様状態(頭がぼ~っとする)・頭痛
初診日:平成25年2月中旬
(既往歴~現病歴)
幼児期から肩こりがあり偏頭痛(眉間)から嘔吐することがよくあった。10歳の頃、急性腎炎発症。中学になり生理が始まると、生理前に必ず過食になり頭痛(こめかみと目の奥)が起こる。生理後、過食は治まり、頭痛もやや楽になる。
風邪も引きやすく、風邪を引くと扁桃腺炎、高熱、中耳炎になっていた。
職場ではパソコン作業が殆どで、肩こりや冷えのぼせが酷くなり、腰もだるくなるが、ヨガやダイビングなど運動をしてストレスを発散していた。
昨年、秋、ダイビングに行って軽い減圧症になり関節痛やめまい、耳鳴り等が出現。特に、この後から、頭に酸素が届いていない感じで、頭に膜が張ってるようで、思考が回らなく頭がぼ~っとするようになる。
ヨガにいっても身体はスッキリするものの、頭はぼ~っとして頭と身体が分離しているように感じる。それは、蒸し暑さや飲酒、油物の摂取過剰の時に悪化し、寒い時や休日はマシになる。この症状は病院でも治らず、ホームページにて来院される。
(その他の問診事項)
・今まで入浴で身体はスッキリしていたのが主訴発症後スッキリ感はなくなる。
・発汗後、運動後疲れるようになる。
・月経2~3日前から2日目ごろまで経痛有り。主訴に変化は無し。
・よく胃が痛くなる。
(主な体表観察情報)
顔面診:青白色で非常に肌理が細かく光沢あり、肝・腎色抜け。
舌診:老舌(しっかり出せる)、紅舌 若干色褪せ、白~黄膩苔(中焦から下焦)、両舌辺剥けと紅点多数、舌腹紅色。
脈診:1息4至、枯弦脈、幅脈力共に有り。
原穴診:全体的に左が虚でトップは太溪と照海、神門。右は実が多く合谷、太衝の順。
背候診:巨闕兪と神道の1行、2行線左きつい実でその反対が虚、右の肝兪から胃兪実。右の腎兪から志室の繋がった虚。
腹診:心下虚、左脾募実、右肝之相火実、左天枢虚。
(診断治療と考察)
幼児期からの嘔吐や偏頭痛、また生理時に頭痛になることなど、全て上部に症状が現れています。その上、会社でのパソコン作業で更に気が上に上がっている状態です。
元々遺伝的にも腎の蔵が弱いこともあわせて下半身が不安定になり、上下のバランスが崩れていたと思います。上下が崩れれば、左右にも影響がでて全体のバランスが乱れていきます。
体表観察と照らし合わせても、左右、上下のバランスが崩れている事が分かります。
よって、左右を整えながら上下も調える治療方法を意識しました。
初めは、足の照海で下部を補いながら上下左右を整え、次に手の後溪を使い、上部を中心に上下左右を調節していきました。これで、胃痛が良くなり気分も楽になってきました。
しかし、12診治療をしても頭のぼ~っとした感じがとれず、偏頭痛が出てきたため、鍼を刺さない打診治療に切り替えました。
すると、たまに出ていた偏頭痛もなくなり、頭がぼ~っとする感じもかなりマシになってきました。ご本人も、「あのコンコンは何ですか?すごい・・・」と言われるほどです。
現在、22診目です。仕事が多忙な時など頭が痛くなる事もありますが、かなり回復が速くなり打鍼の効果を実感しています。上下左右が大きくバランスが崩れているとき、かつ、実もあるものの虚にウエートががより傾いている時、更に、精神的な疲労度合いが大きい時などを考えると打鍼の方が効果があると思います。
鍼灸治療と共に、好きな運動をして、上手に発散しながら日々のストレスを悠々と乗り越えていっていただきたいです。