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実千代鍼灸院 Michiyo Acupuncture Clinic

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症例

2016年2月24日(水)

不妊症 []

【主訴】不妊 39歳女性
【初診】平成27年2月

【現病歴】
結婚して4年後(平成26年)に初めて妊娠し、心音も確認できたものの約2ヶ月程で稽留流産により掻爬。流産後は、精神的ショックが大きかったが、約1ヶ月後に月経が再開し徐々に気分も回復する。
10年前から子宮筋腫3センチ大が数個あったが徐々に大きくなり数も倍増。不妊治療には抵抗があり、鍼で身体を整え妊娠したいとの事で来院される。

【その他の問診事項】
・20代ギックリ腰2回
・冬は月経周期が遅くなり、頻尿
・30歳すぎ~ほぼ毎朝両手指が浮腫み動かしにくい。
・30歳すぎ~疲労時やストレス時右耳鳴(高音)耳閉感。
・ストレスで寝付きが悪く多夢。
・運動しても足は冷える。
・月経前イライラ・過食・乳張・頭痛。月経後消失。

【各種弁証】
八網弁証:
裏 (表証所見なし)、
虚寒 (腎陽虚)
実 (肝鬱気滞証、衝脈気結証)

臓腑経絡弁証:
<肝鬱気滞>…月経痛、月経時の乳房脹痛、月経前のイライラ・肩こり・便秘、朝両手が浮腫み動かすと治る、ストレスで過食、ストレス時高音耳鳴り、
脈滑弦、重按+、右肝の相火、顔面肝抜け、合谷R実・L虚熱感あり、太衝L実・R虚中の実で熱感あり、後渓R虚中の実、両(右>左)肝兪実。

<腎陽虚>…足冷、冷えると頻尿、冬に月経が遅れる、経血薄く減、冷えると尿漏れ、温飲好み少量、長年の右耳閉感、腰痛、気海、太巨、両志室冷え、照海L虚、右尺位やや硬い脈、舌胖大歯根有、舌色あせ湿潤、顔面腎の白抜け。

<衝脈気結証>…子宮筋腫、少腹部の脹痛、冬月経後期、乳房脹痛、流産経験有、
太衝L実、R熱感、公孫L、三陰交R実、照海L虚、

【正邪弁証】
入浴後、二便後、運動(ヨガ90分)後、月経後に身体が疲れずスッキリする事や、気滞により様々な症状が出ていることから、全体的には実証と考えます。虚は、上記のように腎の陽虚所見が多く見られ、運動等、気滞がとれても冷えは除去されないことから、陽虚を意識しながら治療をすすめていく事にします。

【チャート図】


(チャート図上をクリックしたら大きくなります)

【病因病理】
七情不和(過剰ストレス)により肝気の昇発作用や疏泄作用が阻害され、気の巡りが悪くなり、肝鬱気滞から、血瘀(子宮筋腫)が形成されたと思われます。子宮筋腫等、下焦(下半身)に気が停滞しやすいのは、下焦の弱りと共に腎の陽気不足も重なったためと考えました。ストレスにより肥厚甘味の過食が継続すれば、脾を弱らせ、脾と腎が互いに補い合えなければ腎虚がすすみます。

また、生殖機能は衝脈が主っています。この衝脈に不足や不通が生じれば妊娠しにくくなります。患者さんは、肝経の気滞が衝脈に影響し、月経不順・痛経・乳張などが生じ、更に腎陽虚による陰寒の邪が不通を助長させ不妊に至ったものと考えました。

【治療方針と治療】衝脈解鬱・疏肝理気(衝脈は肝経と密接なので肝の疏泄作用を高める治療方針とします)

1診目:後渓(右)→右肝之相火緩む。
2診目:申脈(右)→右耳自閉感マシに。右鼻から血混じりのドロってした鼻水が出る。
3診目:後渓(左)→耳閉感消失。
5診目~8診目:三陰交
9診目~42診目:太衝 →27診目から8日間タール状の黒便が大量に出る。
42診目で妊娠陽性反応。

43診目~47診目:太白灸 →不正出血の為。
48診目(8週目)~88診目:後渓、申脈、太衝、照海のいずれか。(風寒時は外関)

【治療結果】
上記の通り、3診目には耳閉感が消失する等、鍼の効果が早くから現れました。当初はご自分の体調や不妊に関してかなり神経質に悩まれ、眉間にいつもしわを寄せておられましたが、治療するたびに明るくなって本来のご自分の性格に戻られました。

足も温まり腎陽虚が改善されてきたばかりでなく、27診目から黒い便が8日間ほど続き、瘀血が下ったようです。その後、すぐに妊娠されました。妊娠後も鮮血少量出血がありましたが、これはバックにあった脾の弱りからくる統血作用の低下と見立て太白の灸を施し改善されました。

また、大きな筋腫の為に定期的に大学病院で検査を受けられていましたが、59診目の検査では筋腫が壊死していたようです。
赤ちゃんも順調に育っており、後少しでご出産です。

患者さんは、赤ちゃんの姿の無い時から出産まで鍼治療を受けられ、本当に楽しい妊娠生活を送られていました。間もなくお母さんになられる彼女は、もうすっかり明るく逞しい女性に成長されました。鍼を信じて本当に頑張って通ってきて下さいました。心から感謝いたします。スタッフ共々可愛い赤ちゃんに会えるのが楽しみです。

2016年2月1日(月)

梅核気(喉の閉塞感) []

【主訴】梅核気(喉の閉塞感)43歳女性
【初診】平成27年6月下旬

【現病歴】
約1年前の2月、喉のつまりと口渇が出現(この頃、毎年ご主人の転勤の辞令が決定する頃で過度に緊張している)。過去にも2回、同様の症状が出現する。痰(透明)がいつも喉にからみ、常時ゲップがでて口に苦みを感じる。嚥下には影響なし。
数か月後の春、食後に胸やけが伴うようになり、食欲減退。体重は4キロ減少する。ジョギング中にも吐き気がでるようになりジョギングを止める。

【増悪因子】
何もせず、ボーっとしている時。(過去2回の喉のつまり感は強ストレスから)

【緩解因子】
起床時、目標があって動こうとする時、忙しい時

【その他の問診事項】
・雨天前、頭痛。
・出産後月経痛減少。月経前イライラ、月経後体調は良、主訴は不変。
・足が冷え、冬はこたつから出られない。
・口の中にピリピリした痛み、場所は日によって変化、口内炎出来やすい
・幼少期、扁桃腺炎で高熱出し、小学校時両扁桃腺切除。
・40歳に副鼻腔炎発症。
幼い頃から迷子になる夢をよく見る
・目の充血。
・主訴発症前に萎縮性胃炎になる。

【各種弁証】
八綱弁証: 裏(表証所見なし)、実(肝気上逆証)、上熱下寒。
臓腑経絡弁証: 肝:月経前イライラ、春季に発症、顔面診肝白抜け、舌辺剥げ、舌尖紅、弦脈、太衝、肝兪、胆兪、合谷、肝之相火右等の反応。

【弁証】肝気上逆証

【チャート図】

【病因病理】
過去に2回ストレスから同症状が起こっていますが、今回は、ご主人が単身赴任から戻ってくると分かってからの発症です。毎年春に、ご主人の転勤の有無でハラハラされる等、緊張もピークになっていたところ、嬉しさで肝気が上ったものと思われます。日常の過食や不安感等から胃に負担をかけていたため、普通は下降する胃気が逆に上がり曖気(ゲップ)が止まらなくなっています。
また、鍼治療の予約を入れた時から症状がやや改善されていることからも、症状に対する安心感から肝気(緊張)が緩んだためと思われます。したがって、この喉の閉塞感は、七情に起因する肝の疏泄機能失調により、肝気が上焦(喉)で鬱滞したものと考えました。

【治療方針と治療】疏肝降気(肝気を巡らせて気を下げる)

初診から6診目:太衝
8診目から10診目:後渓
11診目から14診目:太衝
15診目から20診目:後渓

【治療結果】
5診目には当初10だった主訴は2に軽減されました。痩せたと言われる事に対するショックもあり、6診目には食べ放題に行かれていますが、主訴の悪化はありませんでした。不安感も無くなり20診で治療は終了しました。

東洋医学では、この喉の閉塞感は梅核気といって痰と気が喉で結びついて発症すると考えますが、肝の疏泄機能が正常に働けば痰も巡り散ります。今回は気>痰の梅核気と考え、肝気を中心に治療し功を奏しました。日常的に多く見られる疾患です。

また、増悪因子に、何もせずぼーっとしている時を挙げられていますが、じっとしているため気が廻らない事での悪化と共に、ご本人の真面目な性格からも何もしていない事への罪悪感が緊張に繋がっていると思います。

ご両親共に小さい頃から厳しいご家庭に育った方は、往々にしてこのようにダラダラしている自身に対して罪悪感を持ちやすい傾向にあります。夢も小さい頃から迷子になる夢をよく見られてることからも、根底には自信が無く、ご主人等頼る人が側にいないと精神的に不安感が増すのだと思います。

日常、運動等で発散しながら、少しずつ心身を解放し自信を持たれる事で、ご本人の真面目な性格が良さとなって発揮されると思います。