尼崎市在住 35歳女性 営業職
主訴:生理痛
初診日:平成23年7月下旬
(現病歴)
5歳で卵巣嚢腫のため卵巣摘出。同時期に橋本病が見つかり、チラージンを現在まで30年間服用している。
12歳で初潮を迎えるが生理痛がきつかった。就職してから生理痛はややましになったが、夕方に足が浮腫むようになり、肩も凝るようになる。
30歳を超えてから何回かぎっくり腰を起こすようにもなる。
昨年、部署が代わりストレスが過多になった頃から、生理初日における生理痛が酷くなり、キリキリした激痛に苦しむ。また生理時に必ず酷い腹痛とともに下痢になる。2ヵ月連続で7日間生理がダラダラ続き痛みが酷かったため、婦人科にいくと子宮筋腫(1センチ)があるのみで他は異常なしと言われる。8月から生理痛軽減のためピル治療を始める予定にしている。
生理前は、過食になったり、気分が落ち込んだりしやすく、生理前から生理の1日目~2日目まで下痢になる。
薬:毎月、ロキソプロフェンを服用。
(その他の問診事項)
・小便に何回も行きたくなる。(量少ない)
・ため息がでる。
・冷え性(腰から下)
(特記すべき体表観察)
舌診:紅色、白二苔、滑(舌の表面の潤い)、歯型少し。舌下静脈怒張。
脈診:1息4至半、滑脈で中にギシギシした脈有、やや不整脈、右尺位弱。
原穴診:左太白、太渓、京骨、丘墟、照海、復溜虚。右神門、太白虚。
腹診:心下、右脾募、左肝之相火邪。
背候診:左肺兪~心兪実、右肺兪~心兪虚中実、右肝兪~胃兪実(こそばくて触診難)
(診断と治療方法)
腎虚証・肝鬱気滞証
小さい頃から卵巣のう腫などができていることから、全体のバランスとして、下半身の弱りが見られる。そこへ、ストレスがかかることによって、生理痛が悪化していることから肝気のめぐりが悪くなることが生理痛に関与しているものと大まかに捉えた。肝気のめぐりを長い期間滞らせていたため、お血(おけつ)という病理産物が形成され生理痛になったものと考えた。下半身の弱り(腎、子宮など)を考慮し、その弱りを補うことと、肝気のめぐりを良くすることを同時に行う治療方針とする。
(配穴)
1診目:照海 2番針で15分置針。
2診目から9診目まで:天枢 20分置針。
(治療効果)
ピルを服用することなく、顕著な効果が得られた。4診目に生理がいつものようにきたが薬を服用しなくても痛みはひどくなかった。また生理後はスッキリし調子良い。更に治療後よく眠れるようになり、顔のブツブツも綺麗になってくる。2回目の生理が9診目にきたが全く痛みはなかった。また、生理時の腹痛下痢も全くおこっていない。
(考察)
あんなに痛かった生理痛がこのように短期間で良くなられ、ご本人も大変驚かれていました。東洋医学では、身体全体のバランスを見るため、その不足部分や過剰部分に対して1本の針で調節をしていきます。(少数鍼は北辰会方式の特徴のひとつです)
その時に、虚(不足)と実(過剰)を見分けることが必要です。
彼女は、腎の弱り(虚)と肝気の過剰(実)の両方がみられたため配穴に工夫をしました。(全くの実で使用するツボは選ばなかった)
藤本蓮風著の「臓腑経絡学」の中に、「肝は、五行でいえば「木」の性質を持っている。「木」というのは、上下にのびのびと伸びていく。このことを「条達作用(じょうたつさよう)」という。これは肝の蔵の持つ、自由に伸びようとする、あるいは外へ発散しようとする性質を表したものである。従ってこれらができないと(例えば精神的圧迫等によって)肝の蔵を傷る事になり、肝気うっ血や肝の疎泄障害を起こし、様々な病症を生じていくのである」と言われている。
鍼灸の力は、このような肝気がうっ血し廻りが悪くなるため、精神的に不安定(イライラしたり、悲しくなる等)な状態に対してもアプローチできます。むしろ得意とする分野です。
いくら頭で精神的にコントロールしようとしても中々難しいのが現実です。よって、体から心、更には魂の領域まで善の方向へ回転させていく、それが鍼灸によって可能になるのです。
心と身体を切り離して考えない医療だからこそ出来るのだと確信します。
和泉市在住 58歳 男性 サービス業
主訴:糖尿病
再診日:平成23年4月初旬
(現病歴)
高校を卒業時点で体重82キロ。24歳で緑内障になり、鍼灸治療(実千代鍼灸院の先代)にて眼圧が下がる。食事は油物が好きな上、ジュースをよく飲んでいた。
ある日、運転中ハンドルを握っていると両方の指先がしびれてきたことがあった。50歳のころ胆石のため胆嚢を摘出。この頃タバコを止めたが10キロ更に太る。食生活は、油物に加え、ご飯、おかき等塩分が多かった。この頃から便秘、夜間尿、尿切れが悪い、腰痛、ばね指(右)なども起こった。現在も右手は握りにくい。
昨年あたりから、夏の暑さが堪えるようになり、疲れが増すようになる。
ジムで運動したりウォーキングに挑戦するようになるが、今年、自分で尿糖検査薬でしらべたところ、陽性反応が出る。病院にて血糖値240、HbA1c12で糖尿病といわれる。
仕事は、長年営業職。99パーセント外まわりで、気を使う仕事。帰宅時間もばらばらで生活は不規則。
(特記すべき体表観察)
舌診:暗紅色、白膩苔、舌が腫れぼったい、舌下静脈怒張が酷い。
脈診:1息3至、滑脉、尺位弱、脈力有り、脈幅なし。
原穴診:虚(右合谷・京骨・丘墟・照海、左陽池・太白)実(左太衝・衝陽)
背候診:圧痛(巨闕兪・神道・霊台・筋縮・懸枢・腰陽關)、左厥陰兪、心兪虚中実、右心兪から腎兪まで虚。
腹診:左脾墓から肝相火。
(診断と治療穴)
東洋医学では、糖尿病を消渇(しょうかつ)といい、飲食の不節制(過食や油物の摂取過多)、情志の失調(ストレス)、房労による傷腎(セックス過多や仕事過多による腎の弱り)、先天的な虚弱、身体を温める薬の過服用などをその病気の原因としてる。
この患者さんも、飲食において油物が多いだけでなく、年齢的に腎の藏が弱る頃に塩分過多などで、更に腎を弱らせていることが考えられる。下に位置する腎の臓の弱りはストレスにより簡単に肝気を上昇させる。(肝気を高ぶらせイライラするなど)
その上、ストレスがかかると余計に好きなもの(油物など)を欲するようになり飲食に節度がなくなってくる。
大本は、ストレス過多による飲食の不摂生であったところ、どんどん胃腸を弱らせたために発症したものと考え、まずは、胃腸の代表ツボである公孫を選穴した。同時に風邪によって(風邪を引くと、風寒邪が体表にある毛穴を塞いでしまうため)身体の中にある邪熱を閉じ込めてしまい、糖尿が悪化する。よって風邪に効果があり反応が顕著だった外関穴を使用し、後に肝のツボなどでストレスを緩和させていく方法とした。
(配穴)
初診から2診目:公孫、外関。15分
3診目から4診目:滑肉門。25分
5診目から10診目:太衝。25分
11診目から16診目:後溪。25分
17診目から19診目:滑肉門。25分
20診目から25診目:梁門。25分
(治療効果)
治療当初から尿の回数が少し減少し、脈の状態、舌の状態(苔が薄くなるなど)反応が顕著に見られた。2週間後の検査にて、血糖値240から150に数値が下がる。HbA1c12は変化なし。しかし、14診目ごろからヘモグロビンは7.7に減少、19診目で6.5になり、23診目に5.9になりほぼ正常値になる。血糖値も120代まで下がる。体重は、9診目でマイナス6キロとなり、ズボンを買い換えないといけないほど細くなる。
(考察)
日本の糖尿病及び糖尿病予備軍の数は、前回の調査(3年ごとに調査)から250万人増加し、計1870万人と推定されています。(厚生労働省平成18年調査から) 40歳から74歳の中高年男性では32.2パーセント、女性は31.5パーセントが糖尿病患者、及び予備軍です。しかし、初期段階では自覚症状がないため治療を受けている人は患者数の10分の1とのことです。口渇、多飲、多尿という典型的な症状が出たら要注意なのですが、ご本人はあまり気づいていない場合が多いのが現状です。
上記の患者さんは、かなり数値が悪かったにも関わらず、薬も服用せずに改善に向かいました。これは、奥様の食事(1800カロリーに抑えた)の努力と適度な運動が良かった事は勿論ですが、このように早期に改善した事は、遠方から鍼灸治療に熱心に通われたことが効を奏したのだと確信します。
治すんだとの患者さんの意思と、その心にお応えしようとの施術者の思いあってこそ達成されたのだと嬉しく思います。糖尿病は生活習慣病です。生活習慣の改善は簡単なようで非常に難しいのが現状でしょう。しかし、身体からバランスをとっていけば、無理なく食事の改善や運動などに挑戦しようとの意欲も出てきますし、それらが鍼の効果を更にアップさせるという好循環が生じます。58歳、まだまだ第一線です。この年齢に病気をされる人が多い中、ますますお元気で若々しく人生を謳歌して頂きたいです。