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実千代鍼灸院 Michiyo Acupuncture Clinic

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症例

2011年2月25日(金)

むち打ち症 []

西宮市在住 男性 36歳
主訴:むち打ち症(2年前の交通事故後の左肩甲骨~左脇、左胸部の痛みと重だるさ)

初診日:平成23年2月初旬

(現病歴)
バイクを運転中に剣道の道具を持参した歩行者と接触。
左肩を強打し右前方にスライディング。左足背剥離骨折、左手関節橈骨ひび割れ、前歯が折れる等の怪我をする。
雨の前の日には主訴と同じ場所に重だるさを感じ、接骨院にて局所鍼を施すも変化なし。昨年の12月上旬ごろからひどく痛み出し、左に首を側屈すると上腕に痛みが放散。痛みや重だるさが常時続くようになり、以前治療されていた奥様のご紹介にて来院される。

(増悪因子):ホッとした時、仰向けで寝ているとき、雨の降る前に痛みが増す。
(緩解因子):仰向けで右首を側屈すると少しましになる。

(その他の特記すべき問診事項)
・飲み物は温飲を好み、口の渇きはあまりない。
・小便の尿勢、尿切れやや悪く、尿漏れがたまにある。
・手足が冷える。
・熟睡感なし、小さな音でも目が覚める、一度目が覚めると 眠れない。
・最近営業の仕事で飲酒の機会が増えた。
・よく扁桃腺炎を発症する。
・ここ半年間運動はしていない。

★上記の問診事項から「上半身の熱、下半身の冷え」。あるいは、「上半身に気が偏り、相対的に下半身が弱っている」可能性がある。

(特記すべき体表観察)
舌診:暗紅色、白苔、裂紋有り(舌上の亀裂)
脈診:1息4至、滑脈、脈力幅とも有り。
ツボ:右臨泣実、右合谷実、左太衝熱感と実、左上部背中のツボ(風門から肝兪まで)熱感で実、胃兪右虚、筋縮圧痛。
腹診:胸膈が狭い、左胃土邪、左脾募、左肝の相火実。

★以上の体表観察から、胃の弱りがあるところ、肝の昂ぶり(ストレス)によって更に胃に負担がかかっている状態。

(診断と治療方針)
交通事故で身体の上部を打撲し、肝経(経筋)と胆経(正経・経筋)という経絡が通っている場所を強打したものと思われる。
また、剥離骨折した足の足背も肝経のツボのある重要な場所で、2年前の事故にも関わらずツボに熱感が顕著に見られた。肝経は、身体の気血をめぐらせる為に中心的な役割をする経絡で、ここを強打したことにより気の流れが滞り易くなったものと考える。(気の交通渋滞状態といえる)
それも上部打撲のため上に気が偏った状態となった。
このような状況の中、昨年からの多忙な日々が重なった事で益々肝気が上がったものと思われる。

つまり、左の上部に気の流れが偏った状態となり、それが痛みや重だるさを引き起こしたと考え、左上の気を通じさせる為に、下の肝経のツボを使って上に上がった気を引き下げる方法をとった。

(配穴と治療経過)
1診目~4診目:太衝(左側) 5番鍼にて15分置鍼。

★日に日に効果が現れ、4診目には種々の痛みが殆ど無くなり、顕著に改善が見られた。

(考察)
肩の痛いところを治療点にするのではなく、局所では無いところや、上に気が傾いているものを下から引っ張って降ろす方法をとるほうが、より確実に治癒することは北辰会方式の治療においては頻繁にみられることです。

ついつい痛いところをもんだり叩いたりしたくなりますが、東洋医学では、上の病には下を考え、右の病には左を考える等など、いかに全体の気のバランスを取るかを考えて治療をします。痛い所のみを追いかければ全体が見えなくなります。

また、なぜこのように数年後に痛みが増悪するのかという事を生活の中にその原因を見つけていきます。
患者さんは、上記のように多忙な生活を続け、運動不足になったことで更に気を上に上げてしまったことが理由と考えられます。

更に、今回の痛みを切っ掛けとして、身体のバランスを見る中で、患者さんは比較的胃が弱く、ストレスがかかると胃に負担がかかると思われます。東洋医学は、「未病治」が特色です。今後に起こるだろう病の根を今のうちに断ち切っておく事ができる治療なのです。
肩の痛みは5回の治療で完治しましたので、今後、体質改善のために月1回来院される予定です。

北辰会代表、藤本蓮風先生が長年かけて編み出された「1本鍼」の素晴らしさを、これからも多くの方に実感して頂きたい思いでいっぱいです。

2011年2月2日(水)

ぎっくり腰 []

大阪市在住 39歳 女性
主訴:ぎっくり腰
初診日:平成23年1月15日

(現病歴)
20年以上前からスポーツとしてボウリングをはじめ冬になるといつも腰痛を起こしていた。ここ10年はボーリングは遊び程度で、卓球の方をよくしている。
昨年12月30日に京都の実家にて卓球とボーリングを楽しんだが、かなり冷えをきつく感じた。2日後の年明け元旦から腰痛になり、屈曲も伸ばす事も出来ず、靴下も自分ではけなくなった。
1月4日大きな病院にて検査を受けるが、異常なしで痛み止めの薬を処方される。
次の日、近所の整骨院でマッサージとテーピング治療を4日間受けるが痛みは変化無し。
京都の鍼灸院にて局所鍼を受け更に悪化したため、また違う病院に行くが先生の説明も不十分でご主人が半喧嘩状態になり病院を後にする。
痛む場所は両腰から臀部(左)にかけての激痛。右の背中から腰にかけて熱感があり腫れ上がっている。動き始めが特に痛む、冷湿布で少しましになる。

(その他の問診事項)
・生理情報:生理痛2日目(服薬)、生理前の過食と便秘、 生理中下痢の時有り。
・口の渇き有り、冷飲好む。
・試合や発表前は下痢、旅行時は便秘。
・出産で生理痛がましになった。

(特記すべき体表観察)
舌診:淡い赤、やや乾燥、白い苔、舌の震え、舌先赤い点々多数。
脈診:1息4至、渋脈、右尺位弱。
腹診:右脾募、右肝の相火実。
ツボ診:右肝兪から三焦兪熱感と実、太衝左実。

(診断と治療方針)
証:腎陽虚証、肝気上逆証

下焦(腰から下)が冷えた事によって、普段から高ぶっている肝気(感情の起伏が激しい)が更に高ぶり、上下のバランスを大きく崩し発症した腰痛と考えた。痛む腰は腫れあがり熱感がきつかったのは、鍼治療などで局所を触ったためと思われる。炎症を起こしている状態で、鍼を刺せば当然悪化する。
様々な治療を施す中、痛みが緩和されず更に肝気を昂ぶらせ悪化したものと考える。(痛みや動けない事自体大きなストレスになるため)

治療は、足が氷のように冷えていたため、下を暖め、上に上がった気を下げるという治療方針とした。

(選穴と治療効果)
1診目~5診目まで:後溪穴の鍼と両復溜のお灸(両方が同じ熱さになるまですえる)
6診目~7診目:百会

1回の治療で歩く時の痛みがましになる。背中の腫れも少し緩和される。
2診目でかなり良くなったため無理をしまた悪化。
4診目で身体はまっすぐに伸びた。
7診目には殆ど痛みが無くなり治療を一旦は終了する。

(考察)
はじめ来院された時は本当にひどい状態で、ベットに横にもなれませんでしたが、みるみるうちに良くなり曲がった腰も伸びました。痛い場所は手で診察のために触れただけで鍼は一切していません。よく痛い場所に鍼をされて悪化し来院される患者さんが多く見られます。炎症を起こしているところに鍼をしたら悪化は当然です。

どこから来た痛みなのか、熱性のものなのか寒性なのかの判断や、本人の身体の状態を、舌、腹部、背中、各ツボなどの情報から多面的に組み合わせて診断すれば確実に良くなっていくのが北辰会の鍼灸治療です。

病の発症時の原因(重いものを持ち上げたことが切っ掛け等等)は様々ですが、ご本人の性格から生じる生活習慣が病に大きく関与しますので、普段から感情が高ぶり易い人は、また弱い腰に来る可能性が大きいです。
今は、息子さんも治療に連れて来られていますので、油断せず治療を継続される事を望みます。
ともかく鍼灸の素晴らしさを実感していただき心から嬉しく思います。

2011年1月21日(金)

坐骨神経痛 []

川西市在住 女性 55歳
初診日:平成22年8月中旬
主訴:坐骨神経痛

(現病歴)
昨年(平成21年)春頃から両足の大腿部後面が痛み出し、仕事に支障が出るようになったためヘルパーの仕事を退職する。しかし、夏に転んで左膝を打撲したことをきっかけに痛みがひどくなり(右>左)坐骨の方まで痛みが広がる。
11月、激痛が起こり救急車で運ばれそのまま2週間の入院となる。
痛み止めの薬や、硬膜外ブロック注射も効果なく、眠れず睡眠薬を毎日服用するようになる。大きな病院に移され、うつ病と診断されるが、処方された薬は服用しなかった。今年5月頃、車を運転する機会が増えてから再び痛みが激しくなり右坐骨~右股関節~右膝が差し込むように痛み、足にテーピング、腰にコルセットを着用。
整形外科でボルタレン、マッサージ、牽引などを施すがよくならず、鍼灸院に来院された。

(増悪因子):動き始めて1~2時間後に激痛。雨が降る前
(緩解因子):立っている等、臀部が何かに触れてない時

(その他の問診事項)
口の渇き有り、温飲好む、口が苦い、寝汗、足が冷える、寝付きが悪い(一時間後)など。

(特記すべき体表観察)
舌診:淡紅色、薄白苔、舌先から舌辺の無苔、やや舌に力が無い。
脈診:脈力有り、脈幅有り。
穴(つぼ)診:左太衝、左臨泣(足)、左照海、巨闕兪の圧痛、左心兪、右肝兪~胃兪、右胞肓冷えなど。
空間診:百会左、臍周左
その他:手足が黄色、痛む場所は冷感。

(診断と治療方針)
証:肝鬱気滞証~膀胱経の経気不利

坐骨神経の痛みは、3年ほど1人で介護していたお父さまが亡くなられた直後に発症している。また、ご主人を亡くされる中、子育てをしながら、立ち仕事に従事されてきた。
これらのことを念頭に、体表を観察すれば、肝気の高ぶりと共に、下半身の弱りが見られる。舌診でも実(ストレス=肝)と虚(弱り=腎)の両面が観察された。

ひとりで生活の全てを切り盛りされる等、緊張の連続の中では何とか持ちこたえていた身体の不調が、ほっとした時に一気に吹き出したものと思われる。
弱りが腰に現れたのは、長年の立ち仕事に加え、更年期辺りの年齢でもあり腎や膀胱などが弱っていた事が考えられる。
痛みの場所が足太陽膀胱経上(大腿部後面)、足陽明胃経絡上(臀部)でもあり、更年期など腎の弱りと重なったことも要因となった。

治療は、腎・膀胱を直接アプローチせず、発病した弱りの中心は脾胃と考え、脾胃をまず立て、肝にアプローチし膀胱の経絡の気の流れをよくする治療とする。

1診目~4診目:脾兪穴
5診目~7診目:百会穴
8診目~10診目:天枢穴
11診目~12診目:滑肉門穴
13診目~15診目:心兪穴
16診目~18診目:天枢穴
19診目~21診目:照海穴
22診目~:太衝穴

(治療結果)
坐骨神経痛の痛みは、治療後数回でやや軽くなる。16診目からは気にならない日も出てきた。現在、冷えた日以外はほぼ痛みが緩和され、よく眠れるようになる。薬の服用は一切無し。

(考察)
ペインクリニックでの痛み止めの注射もボルタレン薬も効果が無かった痛み疾患。これらは、鍼灸の得意とするところです。なぜなら、東洋医学では、痛みの原因を「心と身体の両面」から探っていくからです。
生活でどれ程のご苦労を抱え、どのような生活習慣(仕事も含め)なのか、勿論その一端しか察することは出来ませんが、その一端を知る事がいかに大切なことかをこの症例は教えてくれています。痛みの部分のみを検査し、そこにのみ注射や湿布をしても、根本を知らなければ本当には完治することは出来ません。たとえ精神的なアドバイスは無くても、鍼灸は逆に身体のバランスの崩れを整えていけば精神も安定するのです。

また、このような運動器疾患の治療の時に注意をしなければならないことは、虚と実を見分けることは勿論のこと、病の方向性を見極めることです。
この場合、仕事などで元々腰に負担をかけていた所、腰~臀部~ふくらはぎのように、上から下に病が動きます。その場合、下に取穴(ツボを選ぶ)すれば、病を引っ張り悪化させる可能性があります。腎の虚を考えると、下にツボを取りたかったのですが、これらの事を考え痛みが落ち着いてから照海など下にツボを取りました。
このことは、北辰会代表、藤本蓮風先生の著書「鍼灸治療 上下左右前後の法則(P 173)」にも述べられています。このような疾患はあまりにも多いです。

是非、1本鍼の素晴らしさを実感して頂きたい思いでいっぱいです。