大阪府在住 女性 32歳
主訴:胃炎・ポリープ・逆流性食道炎等の胃腸症状
再診日:平成24年12月
(現病歴)
現在、朝起きた時に胃の痛さが一番きつく、食事をとると治まるという状態が続き検査を受けると胃炎、逆流性食道炎と言われ、ポリープ2個が見つかる。ポリープの除去はしなかった。
漢方薬(平胃散と六君子)と精神安定剤を処方され服用するも変化はなし。
子育てに多忙で、ストレスが溜ると過食になり、神経を使うと舌の先や舌の縁がピリピリすることがある事が現症状。
約1年前に、腰痛と胃炎を訴えられ治療を受けられ、腰痛は2回で良くなり一旦こられなくなる。胃は7年前から調子が悪く、今まで病院で胃炎、逆流性食道炎の他、胃潰瘍の疑い、胃機能性失調症等と言われる。更にさかのぼれば、19歳の頃から毎朝胃もたれがあり食欲が無く便秘をしていた。その上、仕事でのストレスで暴飲暴食を繰り返し、胃痛になると一週間何も食べれなくなり痩せていった。
これ以降、毎年春から夏にかけて同症状が起こるようになる。昨年の秋、胃が絞られるように痛くなり嘔吐。嘔吐後は楽になるがまた痛み出す。
(その他の問診事項)
・飲食:大食で好物は、お寿司、肉料理、チーズ料理。毎食後クッキーやチョコを食す。
・二便:2日に1行でコロコロ便の時有りで、黒に近い色。緊張で便秘する。
・汗:少ないが上半身に多い、熱い汗。
・睡眠状態:熟睡感なし、寝起きが悪い、怖い夢をよく見る。
・生理状態:不定期、痛経有り、初日は常に喉が渇き口臭がする、おりもの臭い有り。2回自然分娩。
・その他:口内炎が良くできる(上あごに)、目が乾燥して疲れる。
(特記すべき体表観察)
舌診:暗紅舌、舌先の紅点多数、白い苔がべったり。
脈診:1息4至半、滑脈、脈幅やや無し。
原穴診:右太白・京骨・丘墟・腕骨虚、右太衝虚中実、左照海・太淵・神門虚。
腹診:右脾募から胃土~肝相火が緊張、左脾募、左少腹急結。
背候診:左肺兪~心兪実、左肝兪~胃兪虚中実熱、右肝兪~脾兪大きく虚、右腎兪至室虚、両胞肓冷感。
(診断と治療)
平素から過食、甘い物を食されることが多く胃に負担をかけておられます。それも、チーズ料理や肉料理等を好まれますので身体に熱を溜め込むことになります。その熱は、口内炎、便秘、熱い汗、口臭、おりもの臭い等々問診からも分かりますし、体表を観察しても特に肝~胃にかけての熱感がひどく出ていました。
また、舌の苔が非常に分厚いことから熱と湿が結びついて湿熱が体内に形成されていることが考えられます。この過食の原因となっているのは子育て等が多忙でご自分が伸び伸び出来ていない事がストレスになっているようです。様々な情報から肝の気が昂り過ぎておこる実タイプです。これらを考慮して治療を進めていきます。
治療は10診もしないうちに胃の調子はよくなられました。ツボは、太衝~後溪~公孫というように変化させていきました。
(考察)
現在、このようにストレスや緊張から過食に走る方、大多数ではないでしょうか。甘いものなどは身近かに直ぐ手に入る環境です。要は、そのストレス度合いや過食の程度がどれほどかという問題だけです。逆流性食道炎や胃炎などを繰り返していると胃潰瘍になっていく可能性は大きいです。胃潰瘍は粘膜に傷が付くわけですからそのまま治癒せず繰り返してばかりですと胃ガンにもなりかねません。
鍼灸治療はその方の今の精神状態と体表所見を考え、この先どのようになっていくかが予見でき、また、その悪い予後を防ぐことのできる優れた治療なのです。
根治してこそ意味があります。また、もっと意味のあることは、自分の身体を医者まかせや薬で目隠しするのでは無く自覚し、無理なく制御できる精神状態にまで高めることが大事ではないでしょうか。
この患者さんが身体から心へ、そして心から身体へ善の循環になりますようにいつも応援しています。
西宮市在住 8歳 女子
主訴:腹痛、便秘
初診日:平成24年12月下旬
(現症状)
小学校1年生の夏ごろから便秘になり、5日目に病院にて浣腸で排泄(粘稠で緑色の臭い便)。それ以降、便が出ない時は、坐薬か浣腸を使用するようになる。
昨年12月の初旬に5日間ほど自力で便が出たが、腹痛が酷いため大きな病院にて検査をする。腸にたくさん便が詰まっているため、「1年半くらいは毎日浣腸しないと自力では無理です」と医者から言われる。現在、浣腸してコロコロ便か未消化便が出るが、起床時と食後2時間経つと必ず腹痛(お臍の上下が痛む)になる。力みすぎて排便後はぐったりしている。硬い便の時は、排便後も腹痛は治まらない。
(家庭環境)
2歳の妹と両親の4人家族。主訴発症当時、習い事(あまり好きでないのも有り)が多く忙しい上、祖母が入院したため友人宅へあずけられたりしていた。
母は仕事をしながら、祖母入院前までは、母親自身も習い事等、多忙な毎日をおくっていた。
(本人の性格)
一人っ子の時から感受性が強く人の気持ちに敏感。小学校入学時ごろ妹さんが誕生。同時に、夢をよく見るようになった。(剣を持ったママに追いかけられる夢や、パパに意地悪される夢など)実際夢を見ながら叫ぶことがある。
(主な体表観察所見)
舌診:紅舌、舌先紅、舌先~舌辺に紅点多数。
脈診:滑脈の中に枯脈。
腹診背候診:こそばくて詳細に触診できず。
原穴診:左太溪、後溪、照海が虚。右太衝、内関、合谷が実。特に太衝と内関が熱感強。
(診断と治療)
彼女の腹痛を伴うひどい便秘は、上記の様に精神的な事(妹さん誕生や母親多忙等)が引き金となっています。精神的な葛藤などが本来の腸の動きを停滞させてたものと考えます。これは、中医学では肝脾気滞(かんひきたい)の便秘といって、肝気(様々なストレス)が高ぶりすぎて、脾の臓の運化作用に影響を及ぼして便秘になるというものです。
肝気の高ぶりは、腹診や背候診(こそばくて触れない、督脈上の上部の圧痛等)、舌診(苔はそんなに分厚くはなく、舌が赤く舌先から舌辺にかけて紅点が多数見られる)などからも明らかです。
治療は、敏感な子ですので鍼を刺さずに、古代鍼を使用しました。
(治療結果)
2診目ごろから腹痛が楽になってきて、3診目ごろから便がサッと出るようになってきました。浣腸をすることも中止。腹痛が完全になくなりました。現在7診目ですが毎日排便できるようになりました。
(考察)
彼女は、2年生とは思えないほど大人っぽく、人への観察力がとても冴えていると感じます。何か凄い芸術家になりそうな予感・・・そんな感じの子です。(実際、図工が大好きとのこと)それだけに感受性も強く環境の変化にも敏感です。子どもは大人が思っている以上に口には出さなくても傷つき精神的に堪えてるものです。
このような子どもの体調の変化に気づき、ネットで調べて院に来てくださったお母さんの対応が速くてよかったと思います。
このように親子は一体です。子どもの体調の変化は、何かを親にうったえているものと思い今後も共に進んで頂きたいと心から念願します。
主訴:潰瘍性大腸炎
西宮市在住 39歳 男性 会社員
初診日:平成23年4月初旬
(現病歴)
3年半前から血便が出るようになり、一日の排便は10回以上。病院の検査にて潰瘍性大腸炎と診断される。
当初は、みぞおちや胃が気持ち悪い上、ピリピリするほど頚に熱感があった。身体もだるくなり、夜11時頃になると38°ほどの熱がでる。
冷飲を欲するが、身体のために気を付けている。肉も控えるようにしているが、血便など調子が悪くなると病院へ行き、薬を服用し治まる。
このような状態を3年半程繰り返している。現在ペンサタを服用し出血はおさまっている。
今年の4月の終わりに次の検査をする予定。
(既往歴)
幼少期:扁桃を腫らしよく高熱を出す。中耳炎、夜泣きなど。
高校2年:腎結石(薬で完治)
(その他の問診事項)
・痰が出る、目やにあり、怪我をすると膿みやすい。
・目が充血し疲れやすい。
・仕事は経理担当でほぼ一日中パソコン作業で神経を使う。
・仕事から帰って子供2人の世話や遊びで多忙。
・運動不足、排便後スッキリする。
(主な体表観察所見)
顔面気色診:心・肝が特に白く抜けている。
脈診:1息4至半、弦脈、右の尺位に枯弦脈。脈力有り。
舌診:紅色、白厚二苔(中央から舌の奥)、右の辺に紅点が多数有り、舌の中央に割れ目有り。
原穴診:左(太淵、合谷、太溪、照海虚)、左(臨泣、内関熱実)
背候診:右肺兪から心兪まで虚、左肺兪から心兪まで虚中実。
腰陽関、神道の庄痛、胞膏の冷え。
(診断と治療方法)
肝気上逆証(内熱)、腎虚証。
高校生の時に腎臓結石や扁桃の熱をよく出していることから、ひとつは腎の機能の弱りが考えられる。下部の腎が弱っているところ、経理の仕事で気を使う上、一日中パソコンを使用し運動不足状態。これでは肝気を容
易に上昇させてしまう。つまり肝気上逆となり、下が冷えて上が熱化する状態となりやすい。上部を示す内関穴や百会穴などに酷い熱感が見られることからも明らかである。
また、下部の状態を示す太溪穴や腎兪、志室穴などのツボに冷えや弱りも見られる。このように下部が弱ることによって、更に肝気を昂らせる結果となってしまう。
潰瘍性大腸炎は、腎など下部に弱りがあったため、大腸に邪熱が下注し潰瘍になったものと思われる。しかし、排便後にスッキリすることや、脈力有力などから実証と考える。(体力が充実しているということ。)
(配穴と治療効果)
1診目:百会穴5番 10分
2診目~8診目:後溪穴 2番 20分
9診目~10診目:申脈穴
11診目:百会穴
12診目:滑肉門穴
13診目~14診目:後溪穴
★3診目ごろから、身体が軽くなってきたように感じる。検査の結果は良好で8診目には薬の量が減る。便通は正常便で睡眠も良くとれている。
10診目から薬は服用していない。14診目ごろには食べ物も気にしなくても調子が良くなってくる。
(考察)
潰瘍性大腸炎は現在では難病の範疇に入りますが、非常に多くの方が罹患されておられます。
胃潰瘍の大腸版で、文字通り大腸に潰瘍ができる病です。精神的なものが大きく症状に作用し、繰り返すのが特徴です。完治が難しいため、難病と言われる所以もあります。
北辰会代表、藤本蓮風先生は、著書「鍼灸医学における実践から理論へパート4」の中で、潰瘍性大腸炎の出血のメカニズムについて述べられています。その中で、虚実、寒熱を的確に判断しなければ危険であると言われています。(特に出血している場合は)邪熱が身体の深いところを襲えば、夜中に発熱し朝に下がっているのが特徴とされています。
また何故邪熱が篭るようになったのかを、ご自分でも自覚していくことが再発を防ぐことになると思います。
ストレス過多、また、ストレスからくる過食(油物、甘いものの摂取過多)、運動不足などは容易に邪熱を身体にこもらせてしまいます。
無理をせず養生し、鍼灸治療を継続していけば、このような難病でもこの患者さんのように再発はしなくなります。
西宮市在住 女性 40歳 既婚
主訴:逆流性食道炎
初診日:平成23年4月下旬
(現病歴)
5年前から食道・喉の違和感、閉塞感、胃もたれが起こり、酷くなると食道あたりがモヤモヤしゲップが頻繁に出るようになる。
食欲も無くなり痩せていくため病院に行くがなかなか医者に症状を理解してもらえず「気分で治せ!」と言われる。症状は益々悪化。空腹感が無く食べると食道が焼けるようなひどい胸やけが起こるなど逆流性食道炎の症状のため入院する。気分も滅入り鬱症状も出るがこれは薬1年間服用し良くなる。
逆流性食道炎の症状は、お子さんのアトピーや喘息などで多忙な毎日を過ごし、お子さんの症状が良くなってきたころ出現した。
服用している薬は漢方薬の六君子湯、ガスモチン、タケプロン、アルドイド、各種サプリなど。
(既往歴)
27歳:メニエル氏病が秋頃になると起こっていた。
29歳:扁桃腺摘出。
32歳:ピロリ菌除去。
(その他の症状)
・首、肩、背中の凝り。
・目が疲れる、かすむ、乾燥する。
・よく便秘になる。
(特記すべき問診事項)
・口の渇き有り。冷飲好むが温飲を飲むようにしている。
・口内炎が出来易い。
・耳鳴り有り。
(特記すべき体表観察)
舌診:暗紅色でやや色が褪せている。舌苔:白二苔、舌の先が赤と黒の点が多数。
脈診:1息4至半、弦脈、脈力幅とも有り。
原穴診:太白虚、太衝虚中実、照海虚、神門虚など。
背候診:筋縮、中枢、脊中の圧痛、両肝兪熱感実、心兪実など。
腹診:右脾募、左肝之相火。
(診断と治療法)
ストレス過剰は胃酸を過剰に出すことは西洋医学的にも知られている。東洋医学では、元来胃腸の弱いところストレスがかかり過ぎたため、下に下がるべき「胃の気」が逆上し、それが熱とともに胃や食道を犯し逆流性食道炎を引き起こしたと思われる。
多忙や神経を使いすぎて肝気が高ぶると、口が苦くなったり、便秘を引き起こし口内炎が出来やすく耳鳴りなども起こしやすくなる。肝気が脾胃を抑えているため肝気の高ぶりを抑える治療を先に試みる。
(配穴と治療効果)
1診目~3診目まで:百会 10分
4診目~10診目まで:後渓 20分
11診目~12診目まで:天枢 25分
治療効果:1診目後タケプロンを服用せずに来院できる。5診目にはゲップの回数が減り便秘が解消されていった。同時に胃もたれが減少し食欲が出てくるようになる。
(考察)
患者さんは現在も多忙にされているにも拘らず、逆流性の症状がかなり軽減されました。これは、胃腸が弱いところ肝気が高ぶった事が原因ですが、胃腸のツボは直接触りませんでした。むしろ肝気を下ろすツボに取穴したことにより、胃腸も改善された典型的な例です。
「脾胃を治するは医の王道なり」とは、脾胃論(胃腸こそが身体の中心)を唱えたことで有名な李東垣という金元時代の医者の名言です。
胃腸を丈夫にすることが他の臓器をも調節していく根本と考えます。
現代に流行している病は、肝気の昂り過ぎ(過剰ストレス)によって脾胃を損ねてしまい発症しているものが非常に多く見られます。
潰瘍性大腸炎、喘息、アトピー、各種癌、うつ症状、胃潰瘍、胃炎などなどです。
本来人間は、やる気と希望をもって生きていこうとする生き物だと思います。それが、やる気なし、疲れる、イライラするという反対の状態の時は自分の体に変調が起きていると気づき早めに対処していきたいものです。