西宮市在住 34歳 女性 一般事務
主訴:坐骨神経痛と不妊症
初診日:平成22年2月27日
(現病歴)
30歳を越えた頃からぎっくり腰が度々起こるようになる。2回目のぎっくり腰では整骨院に数か月通院するが、すっきりと治らず、左坐骨神経痛も発症。
昨年夏ごろストレッチ中に股関節を痛め坐骨神経痛が悪化。同時に左足のむくみや冷え性も出現する。両腰も脹って痛く、子宮の辺りにも冷えを感じるようになった。
入浴で温める、ゆっくりとした運動をする、仕事など集中している時などは痛みがましになり、疲れが溜まった夕方や生理前は冷えがきつくなり腰痛も悪化する。
また子どもを欲した数年前からなかなか授からず、昨年から不妊治療を始める。妊娠したいこともあわせ来院される。
(既往歴)
22歳ごろ:胃潰瘍
30歳ごろ:バセドウ氏病(約3年間薬を服用)1年前完治。
(その他の問診事項)
・甘いもの(チョコレートなど)をよく食べる。
・口の渇きなし、温飲を好む。
・尿回数1日10回。
・ドライアイ、充血、眼精疲労。
・口内炎ができ易い。
・生理痛有り、生理前過食、生理後身体全体が軽くなる。
・ホットヨガとウォーキングで腰痛が増しになる。
★上記の問診事項から、肝気の高ぶりから腎の臓が相対的に弱っていることが考えられる。
(特記すべき体表観察)
舌診:紅色舌、やや乾燥、舌尖が赤く点々が多数、白く厚い苔有り。
脈診:一息4至半、滑脈、脈力有り。
原穴診:手足のツボの状況:左合谷、左衝陽、左太衝が実、左照海が虚。
背候診:左心兪実、右心兪・右肝兪から脾兪まで虚中の実、上部の熱と下部(関元兪・小腸兪)の冷え、神道の圧痛。
腹診:胃土、左脾募、右肝相火の邪。
★上記の体表観察から、肝気の高ぶりは、胃と腎に影響を及ぼしている可能性がある。
(診断と治療方針)
証:肝鬱気滞証(かんうつきたい)> 腎虚証(じんきょ)
腰などの下部は実際に冷えているものの、肝気の高ぶりを抑えれば下部が温かくなるも
のと考える。それは、舌の尖端の赤みや紅点の多さ、また、背中の上部の熱感と下部の
冷えの状態などからもうかがえる。
芯からの冷えなら、舌の色は色あせた淡い赤になったり、脈はこのように有力にはなり
にくい。また、肝気の高ぶりを証明する要素として、ウォーキングなどで腰痛がましに
なり、生理後も身体が軽くなる。ツボの状態などからも、これらは、腎の弱りが中心ではなく、肝気の高ぶりが中心と考えられる。
よって、上がり過ぎた肝気を下げる事を中心とした治療方針とする。
姙娠も腎が大きく関係するが、肝を中心に治療すれば腎も強化され腰痛も緩和。上下のバランスがとれると考える。
1診目~6診目まで:百会左 5番鍼 15分置鍼
★ここまでの治療で腰痛、坐骨神経痛はほぼよくなる。
7診目~14診目まで:後溪穴 3番鍼 20分~25分置鍼
15診目~16診目:数日後人工授精のためツボを変更。肝兪 25分
17診目~百会、後溪、脾兪のうち1つ。
★人工授精2回目で無事成功する。6週目。
28診目~33診目:照海穴 3番 20分置鍼
★順調に3月中旬出産予定。
(考察)
腰痛を切っ掛けとして来院されましたが、妊娠にまで至り本当に喜んでいます。
東洋医学では、腎と肝は、妊娠にとって非常に重要な臓腑です。
腎の弱りは、頻尿などの尿の問題、腰痛、精力減退、白髪、物忘れなどの老化現象として現われ、肝の高ぶりは、舌の先の赤みや紅点、イライラ、肩こり、目の充血などなど首から上の症状として現れやすいです。
肝か腎、どちらが中心なのか、また、肝の高ぶりの強さによっても妊娠のし易さ難しさは決まってしまう場合があります。
患者さんは、肝が中心だった故に、妊娠にいたるまで肝と関係のあるツボを選び治療をしていきました。出産も間近になり、また腰痛が発症しましたので今度は、腎を中心とした照海というツボを選穴しました。
今後、出産により多少腎を痛め、子育ての忙しさでまた肝が高ぶることが予測されますので、鍼で時々体調を調える事をお勧めします。赤ちゃん心から楽しみに待っています。
主訴:不妊症
西宮市在住 31歳 主婦
初診日:平成22年2月中旬
(現在の状況)
25歳で結婚したが妊娠が認められず、2年後婦人科へ行き検査を受ける。無排卵月経と診断され、生理5日目から3日間クロミットを服用する。
ご主人は精子の運動量が弱いと言われる。基礎体温は正常。
人工授精を7回から8回試みる。内1回だけ陽性反応が出たがすぐに流産となる。最後に不妊治療を行ったのは、5ヶ月前。今年に入ってから一瞬フワッとするようなめまいが起こる。
(その他の症状)
・5年前:眼圧が高い。
・3年前:B型肝炎。
・結婚してから8キロ増。
・両肩がこる。
・運動後腰痛が起こる。
★上記の情報から肝と腎のバランスの乱れが見られる。
(その他の問診事項)
・生理前に甘い物が欲しくなり、のどが渇く。
・口内炎が出来易い。
・足が冷える。
・熟睡感無し。
・運動したり、入浴(30分~40分)でのぼせる。
★上記の情報から上部の熱、下部の冷えが見られる。
(特記すべき体表観察)
舌診:淡紅、舌先に赤い点多数、舌先が地図状にめくれている。
脈診:滑脈、右尺位が弱い。
穴診:左太白虚、左照海虚、右太衝実、右肝兪から三焦兪まで実熱、神道圧痛、左志室冷
空間診:百会、懸枢、臍共に左上。
★体表観察からも肝と腎、上部の熱と下部の冷えなどの上下のアンバランスが考えられる
(診断と治療方針)
証:腎虚証・肝鬱気滞~やや化火証
不妊には様々な原因が重なっているが、東洋医学では「腎の臓」が大きく関わる。
腎は先天の元気といい「生まれ持ったエネルギー」を指し、「生殖」とも関係が深い。
また、腎が弱ると様々な臓腑に影響を及ぼすが、特に、相互に影響を及ぼすのが肝の臓である。肝気の過度な高ぶりは腎を弱らせ、またその反対も然りである。
これは、主に上(肝気)と下(腎虚)のアンバランスを引き起こす。
この患者さんの肝気の高ぶりは、舌先の赤い点々やツボの肝兪・神道の反応など、肝に関係するつぼに多く見られ、腎は左の腎兪の外方、志室の冷えや照海の反応からも明らかである。実際肝炎などの症状もあり、その肝気はやや進んで熱化傾向(運動、入浴でのぼせることや舌の先の赤みがきつい事など)にもある。
我慢強い性格で、ストレス(肝気の高ぶり)を発散するのが苦手な傾向で、肝の高ぶりが顕著であったため、肝にアプローチする治療とする。
治療穴(ツボ):百会 左 5番鍼 10分置鍼
1診目~14診目まで:肝兪(舌の色があせていたので変更)
15診目~25診目まで:天枢(排卵したので変更)
26診目~27診目まで:太衝
28診目~29診目まで:三陰交(生理が来ないため変更)
30診目~38診目まで:脾兪(生理が来たため変更)
(治療結果)
38診目で妊娠が判明し、現在31週目に入り順調に成長している。
(考察)
たんたんと治療に通われ、このように早く妊娠に至り非常に喜んでいます。
勿論途中つらい思いや焦りなどあったにも関わらず、鍼灸を信じて下さった事に感謝します。つわりも軽い方で、現在も治療に通って下さっています。
腎に関する記載の一部を藤本蓮風先生の「臓腑経絡学」の著書から抜粋させていただくと「女性の不妊症、男性の問題でも起こるが、これらの多くは腎が関与しているという事がいえる。また子どもが生まれつき虚弱なのも腎の力が弱い事が多い」
「腎に注目し、両尺位の脈、特に右命門の脈がしっかりしているかどうかがポイントである」「体表観察で大腸兪穴、腎兪穴、志室あたりが陥没していれば、腎の弱りとみてよい」
このように腎の問題と妊娠は深く関わります。
このケースは、肝気の高ぶりが腎の機能をおさえていた可能性が高く、肝を緩める治療が効を奏したものと考えます。
4月下旬に出産予定で現在順調に成長しています。
赤ちゃんのお顏を見るのが心から楽しみです。
神戸市西区在住 初診時 32歳 女性 パート
主訴:不妊症
(病状、環境などの変化)
幼少の頃から手足が冷え、しもやけがよく出来ていた。
また、小児喘息だったがスイミングに通いだしてから改善する。
学生時代、運動は全くしなかったが、社会人になってからテニスやフラダンスに通い、運動の後は身体がすっきりする。
21歳から販売業に従事。立ち仕事だったが体調の変化は無く健康だった。
28歳で退職、結婚し神戸に移り住む。妊娠しないため病院にいくが、本人は検査での異常は見つからなかったが、ご主人の精子の数が少なく状態もあまりよくなかった。
タイミング療法に始まり、人工授精も10回施すが妊娠せず。その後、体外受精1回目に着床したものの9週目ごろ流産してしまう。その後も体外受精に数回チャレンジするが妊娠はしなかった。ご主人の帰宅は、9時?10時ごろで神経を使う仕事の上、運動も全くしていない。
紹介にてご夫婦揃って治療に来られる。
(その他の主な症状)
貧血症状、肩が凝る、目が眩しく乾燥する、胃が時々もたれる、冷え性(手足)など。
(治療方針)
肝鬱気滞証>脾虚証>腎虚証
舌の色あせ、白い苔、やや舌がはれぼったい状態である事、爪の状態や脾兪、胃兪の穴の反応と上記の自覚症状である、胃のもたれ、目が乾燥、手足の冷えなどを合わせ、脾の臓が弱る事によって、血の生成が不足し、上記のような症状が出現したと思われる。
脾の臓を中心として、脾と腎、脾と肝の関係も相互に悪化していると判断。
しかし、身体全体の状況は、フラダンス1時間半しても疲れることなくすっきりし、気のめぐりも良くなり身体が温まる事等から、脾の気虚を意識しながらも肝の疏泄(気を巡らす作用)の向上を考え、初期は後谿穴に置鍼を施す。9回目以降は、肝兪穴か脾兪穴のどちらかに鍼をする。
(治療経過)
週1?2回、御夫婦一緒に治療に来られる。仕事が多忙であったり、運動不足などで便秘になり肩こりも増すが、治療をする中で改善、貧血症状もほぼよくなった5ヵ月後、18回目の治療で自然妊娠が判明。
つわりも全く無く現在12週目で母子共に健康な状態である。
(考察)
ご主人は、運動不足の上、口内炎がよく出来たり左脇腹によくヘルペスができるなど疲れやすいと言われてましたが、照海(左)の鍼で体調が整い(上下のバランスがよくなる)元気になっていかれました。ご夫婦で一緒に来院された事はよかったと思います。奥さん自身も、検査に出ない所のご自分の体調を知り、精神的に苦痛を感じていた不妊治療を中止されたことが治療の効果をよりアップしたものと思われます。
御夫婦とも自然妊娠できたことに非常に驚かれ、その後も体調管理のため続けて鍼灸治療に通われています。
西宮市在住 初診時40歳 女性 主婦
主訴:不妊症
(病状・環境などの変化)
小さい頃は元気だったが小学校6年のころから運動不足になると肩がよく凝るようになる。中学2年の頃、蛋白尿が出ることがあった。
31歳に結婚するが妊娠せず、35歳に婦人科へ行き不妊治療を開始。この時、慢性甲状腺炎(橋本病)との診断も受け、チラージンSなどを服用する。36歳の時、ご主人の仕事の関係で海外に3年間住み、その地でも体外受精に挑戦する。40歳に至るまで8回(計10回)の体外受精を受けたが一度も着床することは無かった。身体を東洋医学で整えてから不妊治療をしようと決意され来院される。
(その他の主な症状)
両方の肩こり、手足の冷え、よく便秘になる、時々小便の出が悪い、時々立ちくらみがする、白髪が増えた、生理痛は1日目から2日目にストレスがかかった時のみ起こる。
(治療方針)平成20年5月に来院される。体表観察による穴(ツボ)の状況と共に、肩こり、ストレスがかかった時に経痛有り、経血の塊が20歳前半まで多かった、便秘(黒っぽい)、皮膚の状態などの情報から、気滞瘀血証、それに伴う血虚証、冷え、時々小便の出が悪い、白髪などの情報から腎虚証と見立て治療を開始する。当初、三陰交、心兪、肝兪、後谿など取穴し、後半は、天枢、至陰の灸を施し身体のバランスを整えていくようにした。
(治療経過)鍼灸治療を開始して丁度1年後の5月に体外受精に挑戦したところ初めて着床する。しかし、8週目で心音が停止し堕胎となってしまう。
半月後の同平成21年11月に再度、凍結していた卵を戻す予定だったが、内膜が薄く1ヶ月延期となるが、平成22年1月末に内膜が8ミリになっていたので卵を戻した。1ヶ月経過しても子どもの成長が遅く婦人科では期待できないと言われるが、鍼灸治療を継続する中、子どもが急速に成長し、現在6ヶ月を過ぎ安定している。今年の10月出産予定で母子ともに順調の上、妊娠してから一度もつわりがなく安定期に入ると海外旅行に出かける程元気な状態である。
(考察)
患者さんは、初めの頃、週2?3回鍼灸治療にじっくり通われ、1年後に体外受精をされました。自分の体調を整えることに真剣に取り組まれていました。
また初めての着床は、残念ながら堕胎となりましたが、それより着床した喜びの方が大きく、更に淡々と鍼灸治療を続けられます。
2回目の卵は大きくならず不安もあったと思いますが、「(小さいから)カスミちゃんなんです」と笑顔で不安も吹き飛ばし、最後まで初心を貫く姿勢、変わらず鍼を信じて下さる姿勢に、必ず成功すると私も確信していました。
年齢的にも焦りや動揺があって当然の状況のなか、常に淡々と治療に来られ言われたとおり運動(歩くこと)などに挑戦されました。この彼女の努力と精神力に大きな拍手を送りたいです。