57歳 女性 既婚 2022年8月来院
【主訴】左肩甲骨の圧迫感
【病歴】来院10日前に、マッサージ(強め1時間)を受けた翌日の夜から、左肩甲骨に違和感が発症。整形外科受診時、背中を軽く叩かれた時、飛び上がるほどの激痛が走る。X線検査問題無し。鎮痛剤と湿布1週間分処方されるも、口内炎で舌が痛くなったので、5日で服薬は中止。現在背部圧迫感のため、上を向いて寝れない。
増悪因子;吸気時(深呼吸)、座位にてだるくなる、冷風(不快感)
寛解因子;鎮痛剤、湿布(ロキソニン)
【その他】
・10代の頃からしている剣道で常にむちうち状態。
・仕事はかなりの激務だがやりがいを感じていた。出産後は仮眠なしの36時間勤務時もあり。
・病歴に卵巣がん、甲状腺がん手術。37歳月経ストップ。
・50代、尻もちついて、T10~12辺りを圧迫骨折。
・ここ2年リポビタンを日々服用し出勤。
【主な体表所見】
舌診:膩苔、紅舌、舌尖紅。
脈診:滑弦脈、力(+)、幅(-)、重按ok、尺位(左)弱。
腹診:心下胃土に停滞、右肝之相火熱感。
切診:虚(陽池、太谿、太衝、外関、照海、申脈、三陰交すべて左)
【八綱弁証】実>虚
虚:腎虚(臓腑弁証参照)
実:肝鬱気滞~血瘀(臓腑弁証参照)
排泄・発汗・入浴にてスッキリ、強マッサージでスッキリ、
熱:紅舌、寒い日も冷物(アイス)欲す
【臓腑弁証】
肝鬱気滞:仰臥位にて腰痛増悪
腎虚:ギックリ腰起こしやすい、生理時の腰痛、尻もちで圧迫骨折、抜け毛多数。
【診断と治療】
当患者さんは仕事にやりがいを感じてる故に、身体を酷使して頑張り過ぎてしまう所があります。
癌を数回経験されてますが、様々な原因はあるものの、ご自身の体調不良のセンサーに気づかず、働き続けてしまった結果、癌や50代前半で圧迫骨折、背部の圧迫感等の体調不良が出現したものと思われます。
若いときは多少の無理も大丈夫ですが、50代に入ると今までの無理が一気に身体に出てきますね。
基本的にはお元気な方ですので、肝気の停滞をほどく治療を施し、少しずつからだの緊張を緩めることで、気の流れをよくしてきます。
治療は、主にツボの状況から上下のアンバランスを調える為に、1診目に百会穴(やや右側)に10分置鍼。2診目から5診目まで、左の胆兪を置鍼。背部の圧迫感がなくなり呼吸が楽になりました。
その後、適宜ツボや体調に合わせて、申脈や合谷等1穴を選び治療。
現在20診ですが、起床時も楽に起きられるようになり、リポビタンで毎日鞭打ちながら頑張ってた身体も、強壮剤なしで元気に働けるようになられました。
また、患者さんの声にも書いていただきましたが、血液検査の結果、全て正常値になりお医者さんが驚いてました!と言われたそうです。このように無理をしつつも精神力が強い方は、ご自身のメンテナンスを忘れず頑張って下さいね。
17歳 高2 女性
【主訴】左腕の脱力感
病歴:来院1週間前、授業中に急に両腕に力が入らなくなる。当日は早退し以降は学校休む。来院時は右腕は改善、左腕のみの脱力感。更に、左下肢外側に筋肉痛に似た違和感もあった。
発症の1ヶ月前に学校でプレッシャーがかかる事が起こり、その状況は現在も継続。内科・整形を受診するも問題なく心療内科を勧められた為、鍼灸治療を希望し来院。
【主な体表所見】
舌診:淡白舌
脈診:1息4至、滑弦脈、力あり、幅△
腹診:全体的にくすぐったく、腹部、背部共に触れられない
切診:実(厥陰兪、心兪、肝兪左等)、左原穴の多くが虚。
【その他の症状】
・幼少期は便秘で3~4日に1回刺激し硬めの排便。現在は普通便。
・小学校低学年頃まで毎年インフルエンザに罹患。
・中高校では、部活で特に腕を使う競技をしている。時々肉離れ(左大腿前面)右シンスプリント。
【診断と治療】瘀血<気滞による痿証
元々頑張り屋さんで緊張型便秘傾向のため、肝気実(気が停滞し易い)と思われます。このような人は、緊張することが続くと、気逆がおこり易く、上部に症状が出やすくなります。実際、高音耳鳴り、上半身多汗、歯ぎしり、肩こり等々、上部の気の停滞症状がみられます。
最近学校で急なプレッシャーが重なり、心神(東洋医学での精神)が不安定に。これが心血(心臓の血流)に影響し、動悸、寝つき悪く多夢などの症状が発症。
心血と肝血は連動してますので、血不足が更に気の停滞を引き起こし、その停滞が、普段からあるスポーツで使っている腕や大腿部に影響が及んだものと考えました。
気の停滞を取ることによって緩和されると思い、気を巡らせる特効穴、肝兪(8割使用)を中心に使用しました。
【経過】
一回目の治療により、舌の色褪せが改善し、腹部や背部の酷い拒按(くすぐったい感覚が酷く、触られる事を拒否)がましになり、酷い気の停滞が改善するのは速かったです。
3診目には腕に力が入るようになり、更に、起きた時、ぼーっとすること(頭に血流が行きにくい状態)が無くなったと言われてました。学校に行くのが不安でしたが現在は元気に学校に通われてます。
主訴:不眠 50代女性
初診日:平成26年10月中旬
【現病歴】
5年前から夜間尿(1~2回)出現により途中覚醒するが、すぐに眠れていた。
2年前、クッシング症候群発症後から入眠困難が出現、さらに中途覚醒後、眠れなくなる。
ここ2、3ヶ月は尿意を感じる前に、目が覚めるようになった。(一晩に2~3回)
1ヶ月後、旅行予定。それまでに眠れるようになりたいと来院される。
増悪因子:旅行前日(眠ろうと頑張るため、一睡もできないこともある)
仕事前日(30分から1時間眠れず)、旅行中。
緩解因子:眠れなかった翌日のみ疲れてよく眠る。
その他の症状:幼少期から便秘傾向(緊張や環境変化で増悪)、腰痛(重だるい)、下肢のむくみ、耳閉感、耳鳴り、目のかすみや疲れ、運動時の動悸、目のかすみ、立ちくらみ。
体調のことで思い悩むことが多い。
【各種弁証】
八綱弁証:裏(表証無し)・実(心気鬱)・虚(腎虚・血虚)
臓腑経絡弁証:心(不安感、顔面診心白抜け、左心兪実、左後渓実)、
腎(腰痛、夜間尿、耳鳴りと耳閉感、顔面診腎黒、左照海虚、左太溪虚、腹診右大巨虚)
気血津液弁証:気鬱(心配事があると眠れない)、血虚(爪甲淡白、運動時の動悸、目のかすみ、立ちくらみ、眼瞼痙攣)
【治療方針】
患者さんは、真面目で根を詰めて頑張る性格の為、心身共にゆったり出来ず、身体が疲れていても、神経が立って昼寝が全く出来ません。
ご自分の健康状態に対して不安を持ちながらも、心神(精神)のリラックスが少ないので、心気が鬱っしてる状態と思われます。
その様な状態が長く続いている所、年齢的にも腎気の弱りによる夜間尿等が始まる等、下焦の弱りがみられるようになり、益々心気を昂らせ、廻りを悪くした為に不眠になったと考えました。
腎虚や血虚の症状所見はあるものの、昼寝が出来ない事、不眠でも朝から直ぐ行動に移せる事、食欲が有る事、体表観察所見等と併せ、虚もウエートを占めてるものの、実中心に治療をしてみる事にしました。
【証】心気鬱>腎虚
【配穴と効果】
1診目から3診目迄:後渓穴実側。
5診目から8診目迄:太衝穴
9診目:照海穴
【治療効果と考察】
3診目から朝の6時前頃まで眠れるようになってきました。2年前から朝まで眠れなかったのが、このように、直ぐ結果が出るものは、実中心と考えられます。心気の欝滞をとることによって改善され、1ヶ月後に控えていた旅行でも良く眠ることが出来たようです。
しかし、この患者さんは、実中心といっても虚のウエートも大きいため、5診目から虚を補いながら実を瀉す治療法にしました。
このように、実際の臨床では、虚と実が錯雑している場合が殆んどですので、問診と体表観察を併せて、経過を見ながら、その後の陰陽のバランスを考えていくことが大切になります。
また、この患者さんは、当初、鍼灸治療に半信半疑で、お顔も不安気、マイナスな発言が多かったですが、治療する度に徐々に変化がみられました。
不眠の患者さんが非常に多い現代ですが、不眠に対する鍼灸治療の効果は絶大です。
岸和田市在住 女性 43歳
主訴:浮腫(むくみ)特に両下肢
初診日:平成25年1月上旬
(現病歴)
2年前に骨髄バンクドナー提供した3ヶ月後から、施術場所の左臀部が歩行時しびれだし、左足外側を通り、足首まで痺れが出現し、両方の下半身がむくみ出す。(右>左)、張った感じがあり、冷たく重く感じる。靴下の跡が残る。最近は顔のむくみも気になりだし身体は怠い。雨季や雨の日が特に辛く感じる。他覚的には、脛骨を押さえても凹みは戻ってくる。
(負荷試験)
入浴 スッキリして疲労感が取れる。体のだるさもマシになる。
運動 ウォーキング1時間半でスッキリするが、足が痺れ出すので最近余り運動していない。昼寝をすると体のだるさが増し、動き出すと楽になってくる。
(その他の症状)
・ここ半年の間、月経周期が短くなり、月経期間も6日間から4日になる。
・油物を食すると必ず口内炎ができる。
・飲酒量が多いと翌朝に泥状便(1回のみ)
・ストレスが多いと、過食になり昨年夏に4キロ体重が増える。
・2、3ヶ月前から嫌な夢をみてその後寝付けないことがある。
・尿回数は多く10回で量も多い。夜間尿1回。
・汗は少なく、水分摂取量は1日2リットルでミネラルウォーターを主に飲む。
(体表観察)
舌診:淡紅舌、白膩苔、歯痕有り(舌の両方の縁の歯型)
脈診:1息4至半、枯脈。
腹診:心下、左脾募、胃土、右肝之相火。
背候診:右厥陰兪と心兪虚中実、左肝兪から腎兪にかけて実。督脈上の圧痛霊台から命門迄
原穴診:左合谷、太衝、後溪実。右衝陽虚。
(診断と治療)
舌の状態、体表観察情報、入浴運動などの負荷試験情報から、脾(胃腸)の弱り等があるものの、そこが病理の主でなく、気の滞り(気滞)が体の水はけを悪くしているものと考えた。(水分代謝には脾、三焦、腎などが主に関係する)
ドナー提供時に臀部に刺激を与えた事や、冬で汗をかかず発散が少なかった事、ストレスなどが重なり、気の停滞が普段より増した事によって発症した浮腫と診断。
(治療結果)
初診時の治療で熟睡感が得られ、3診目には足の腫れた感じが減少してくる。6診目には顔が引き締まりむくみがとれてくる。同時に、普段から感じていた腰痛も消失。
(考察)
治療を重ねる度に、下腿や顔などを始め、体全体が引き締まり、ドンドン綺麗になっていかれました。舌の腫れぼったさも、無くなりました。2年も悩んでおられた浮腫みが、このように早期に改善された事は、動きの速い肝の蔵の「疏泄(そせつ)作用」が鍼によって、動き出したという事です。つまり、気の停滞が本来排泄されるべき水分までストップさせていたのです。
あとは、自分に優しく、自分を責めないで仕事に取り組めるようにできれば、気がひどく停滞することはなくなってきます。
普段よりよく運動して、気の停滞を起こさないようにする事が大切です。気が停滞すれば、ご自分でも何か詰まった感じがしますので、その事を感じれる程の身体の状態を保って欲しいです。
主訴:子育てによる疲労感
芦屋市在住 39歳
発症時来院日:平成23年1月中旬
(現病歴)
平成19年9月末に同鍼灸院にて逆子(7ヶ月3週目)と足のむくみのため治療を受ける。
子宮収縮もやや起こり、子どもが下がりぎみだった。本人は1回目の治療後、子どもが元の位置に動いた感じがしたとのこと。4回の治療後、検査にて逆子は治っていた。
無事出産して半年後の昨年、腰痛のため再び来院される。腰痛も数回の治療にて完治。
今年に入り再度来院される。主訴は、昨年から2子目ができず、検査すると生理周期も崩れホルモン分泌も乱れていると診断されホルモン剤を処方される。また、この頃より、子どもが元気すぎて(三歳で来年から幼稚園入園予定)ついていけなく、疲労感が増すようになり治療を開始する。
現在の主訴は、
1、朝起きる気力がない。
2、寝ても寝ても疲れが取れない。
3、肩から上が重く、日中ボーっとする事がある。
4、思考回路が単純になっている。
(初診時(妊娠時)の問診事項)
・生理前に綺麗好きになる。経血量が少ない。生理後身体が軽くなる。生理1日前から初日に頭痛などあり。
・足がたまにこむら返りになる。
・高音の耳鳴りが外出した時あり。
・口が渇き冷飲を好み一気にごくごく飲む。
・尿の回数がやや多い。夜間尿あり。尿の勢いがややなし。
(特記すべき体表観察)
舌診:紅色、舌先赤い点々多数、舌を出した時の震えがあり。
顔面診:眉間が青く、口の周りが黒ずんでいる。
脈診:4至半、滑脈、右の尺位が緊脈。
腹診:右脾募、右肝の相火(脇腹)の邪実。
(診断と治療)
証:肝気上逆証>腎虚証
お母さんの身体が本調子でないと、子どもの元気さについていけず、子どもとの関係も悪循環になってくる。
この場合、ストレスなど発散できない過剰エネルギーを実(じつ)とすれば、疲れるなどの体力の弱りを虚(きょ)と考える。疲労感といっても生理後に身体が軽くなる事は東洋医学では実(じつ)とみる。
また、生理時の頭痛、口の渇き、高音の耳鳴り、舌先の赤い点々多数などを考えると、体質的に、頭などの上部に気が昇りやすく、気と共に熱も上昇しやすい身体と思われる。これは、肝気が上に上がっている状態で東洋医学では、「肝気上逆(かんきじょうぎゃく)」という実(じつ)の反応と捉える。
次に弱りである虚は、尿の回数が10回(普通は5回~6回)と多い事や、夜間尿、尿の勢いがやや無い事(出産後は改善)、更に、口の周りが黒ずみ薄く毛が生えている事(出産から3年後、最近)などは、明らかに腎の弱り(腎虚)と考える。つまり、肝気が上に高ぶり過ぎて、下に有る腎が相対的に弱っている状態をさす。
まだまだ年齢もお若いことから腎の弱りはあくまでも相対的なものなので、肝の高ぶりを沈める事を中心とした治療とする。
肝気を沈める事で、腎の機能が補われていくからである。
(選穴と治療効果)
1診目~4診目まで:百会 5番鍼 置鍼時間20分。(肝気を下げるツボ)
★鍼をすると身体が非常に楽になり(特に肩から上の重いものがすっきり取れた)、疲労感が取れ、母である自分の精神が落ち着く事で子どもも落ち着いてきた。
★上記の4つの主訴は全て改善される。
(考察)
数回の治療にて疲労感がとれ、そのことにより子供が落ち着くことは多く見られます。
母親と子どもの関係は相互に密接に影響しあっているからです。
多くは子どもの夜鳴きなどで来院されるケースが多いのですが、実は子どもより、親が多忙で余裕が無かったり、精神的に追い詰められ、その事を子どもが察知し不安定になっている場合が多いのです。このような時は、母親を治療した方がいい場合があります。
この症例はまさに、母親の身体のバランスを整えることで母親の精神が安定し、それが子どもにもいい影響を与えました。お互いに良い循環です。
「今は虐待が社会問題になってますが、お母さんが皆疲れ果てているのでしょうね」と話すと、「それは決して人事ではないんです」と言われました。
温厚な穏やかな様子の彼女でもそのように感じる時があるのですから、どれ程多くのお母さんがひとり苦しんで自己嫌悪に陥っているかを感じます。
この症例を読まれた虐待で悩んでいる、また、虐待しそうだというお母さん、是非相談に来ていただきたいと願います。親子共に救われる東洋医学のすごさを実感していただきたいです。