主訴:潰瘍性大腸炎
西宮市在住 39歳 男性 会社員
初診日:平成23年4月初旬
(現病歴)
3年半前から血便が出るようになり、一日の排便は10回以上。病院の検査にて潰瘍性大腸炎と診断される。
当初は、みぞおちや胃が気持ち悪い上、ピリピリするほど頚に熱感があった。身体もだるくなり、夜11時頃になると38°ほどの熱がでる。
冷飲を欲するが、身体のために気を付けている。肉も控えるようにしているが、血便など調子が悪くなると病院へ行き、薬を服用し治まる。
このような状態を3年半程繰り返している。現在ペンサタを服用し出血はおさまっている。
今年の4月の終わりに次の検査をする予定。
(既往歴)
幼少期:扁桃を腫らしよく高熱を出す。中耳炎、夜泣きなど。
高校2年:腎結石(薬で完治)
(その他の問診事項)
・痰が出る、目やにあり、怪我をすると膿みやすい。
・目が充血し疲れやすい。
・仕事は経理担当でほぼ一日中パソコン作業で神経を使う。
・仕事から帰って子供2人の世話や遊びで多忙。
・運動不足、排便後スッキリする。
(主な体表観察所見)
顔面気色診:心・肝が特に白く抜けている。
脈診:1息4至半、弦脈、右の尺位に枯弦脈。脈力有り。
舌診:紅色、白厚二苔(中央から舌の奥)、右の辺に紅点が多数有り、舌の中央に割れ目有り。
原穴診:左(太淵、合谷、太溪、照海虚)、左(臨泣、内関熱実)
背候診:右肺兪から心兪まで虚、左肺兪から心兪まで虚中実。
腰陽関、神道の庄痛、胞膏の冷え。
(診断と治療方法)
肝気上逆証(内熱)、腎虚証。
高校生の時に腎臓結石や扁桃の熱をよく出していることから、ひとつは腎の機能の弱りが考えられる。下部の腎が弱っているところ、経理の仕事で気を使う上、一日中パソコンを使用し運動不足状態。これでは肝気を容
易に上昇させてしまう。つまり肝気上逆となり、下が冷えて上が熱化する状態となりやすい。上部を示す内関穴や百会穴などに酷い熱感が見られることからも明らかである。
また、下部の状態を示す太溪穴や腎兪、志室穴などのツボに冷えや弱りも見られる。このように下部が弱ることによって、更に肝気を昂らせる結果となってしまう。
潰瘍性大腸炎は、腎など下部に弱りがあったため、大腸に邪熱が下注し潰瘍になったものと思われる。しかし、排便後にスッキリすることや、脈力有力などから実証と考える。(体力が充実しているということ。)
(配穴と治療効果)
1診目:百会穴5番 10分
2診目~8診目:後溪穴 2番 20分
9診目~10診目:申脈穴
11診目:百会穴
12診目:滑肉門穴
13診目~14診目:後溪穴
★3診目ごろから、身体が軽くなってきたように感じる。検査の結果は良好で8診目には薬の量が減る。便通は正常便で睡眠も良くとれている。
10診目から薬は服用していない。14診目ごろには食べ物も気にしなくても調子が良くなってくる。
(考察)
潰瘍性大腸炎は現在では難病の範疇に入りますが、非常に多くの方が罹患されておられます。
胃潰瘍の大腸版で、文字通り大腸に潰瘍ができる病です。精神的なものが大きく症状に作用し、繰り返すのが特徴です。完治が難しいため、難病と言われる所以もあります。
北辰会代表、藤本蓮風先生は、著書「鍼灸医学における実践から理論へパート4」の中で、潰瘍性大腸炎の出血のメカニズムについて述べられています。その中で、虚実、寒熱を的確に判断しなければ危険であると言われています。(特に出血している場合は)邪熱が身体の深いところを襲えば、夜中に発熱し朝に下がっているのが特徴とされています。
また何故邪熱が篭るようになったのかを、ご自分でも自覚していくことが再発を防ぐことになると思います。
ストレス過多、また、ストレスからくる過食(油物、甘いものの摂取過多)、運動不足などは容易に邪熱を身体にこもらせてしまいます。
無理をせず養生し、鍼灸治療を継続していけば、このような難病でもこの患者さんのように再発はしなくなります。