神戸市在住 女性 37歳
主訴:偏頭痛と腹痛、胃痛
初診日:平成22年11月上旬
(現病歴)
子どもの頃から風邪を引き易く、よく中耳炎になっていた。
20歳の頃、ダイエットで12~13キロ体重減少するが、その反動で今度はお菓子しか食べないダイエットをする。
1年間生理が来なくなり、貧血もひどく、一度倒れたためダイエットを中止。現在も立ちくらみは続いている。
また、10年ほど前からストレス性の腹痛がよく起こるようになる。
更に、1年前、転職してから仕事のストレスが増大し、右側の後頭部痛が起こり、痛み(ズキズキ)で眠れなくなった。その後、偏頭痛(右)が、特に秋~冬にかけて頻繁に起こるようになり、痛くなる前は、肩の凝りがひどく目がチカチカする。同時に腹痛もひどくなり胃痛を伴い排便(下痢)をしても痛みはおさまらないため来院される。
(その他の症状)
・1年程前から高音の耳鳴り(左)、寝つきが悪く熟睡感がない、口内炎が出来易い、夏でも汗が出にくい、朝疲れ易い、吐き気、胸やけがする、目が疲れる。
(その他の問診事項)
・飲食:油物が多い、間食でクッキーなど甘い物が多い。
・口渇き有り、温飲を一気に飲む。
・排便尿:残便感あり(1日5~6回)、軟便。尿回数10回。
・生理状況:痛経有り(1日目~2日目)、生理前イライラと食欲増加。
・性格:ストレスをため易い。人に話した後から後悔することも有り。
・運動1時間ですっきりする。
(特記すべき体表観察)
・舌診:暗紅、舌先赤(気が上昇している状態)、白膩苔・ハン大舌(水湿のめぐりが悪く舌が腫れてる)(下記写真)・ 原穴診:左太衝、右合谷、右内関
・背候診:上焦(上部)熱感、神道~脊中まで圧痛(特に接脊)
・脈診:滑弦脈、有力
・腹診:左脾募、肝の相火、胃土の邪
(診断と治療方針)
肝脾不和証:
ストレス過度により肝気が高ぶり過ぎたため、頭痛、耳鳴りなどが起こり、それが元来弱かった脾胃に影響し、腹痛、下痢などの症状もひどくなったと考えた。
油物等の食べ物もさることながら、ストレスの解消が苦手なことや、性格的に思い悩んだり、気にし易い人は、肝から脾胃に影響が及び易い。特に、秋に症状が悪化する事は、夏の暑さによって胃腸を弱らせ、更に肝気が高ぶる結果になったのではないかと思われる。
東洋医学では、胃と肝の関係を「木剋土」(もっこくど)という。この関係は、五行では、木(もく)は肝、土(ど)は脾(胃)にあたり、肝気の疏泄作用(気を全身にめぐらせる作用)と脾気(胃)の運化作用(水分、栄養分を全身に運搬する作用)は、互いに協力して、いわゆる消化吸収が正常に行なわれる。肝と脾胃の関係がうまくいかないと、「木乗土」(もくじょうど)といって、食欲減退や下痢、腹痛など、ストレスから主に消化器系の様々な病状が生じやすくなる。
舌の腫れ(痛み無し)や苔の多さ(脾胃)と舌先から舌辺にかけての赤み(肝)にも、脾胃と肝のアンバランスが証明される。(下記写真)
(治療配穴と治療効果)
約5日に1回の治療
1診目~3診目:心兪穴
4診目~5診目:肝兪穴
6診目~8診目:天枢穴と中脘の灸
9診目~:百会穴
初診後はよく眠れて翌日調子が良かった。5診目までに数回軽い頭痛が起こったがすぐにおさまる。食べると下痢になることから天枢と中脘の灸に変更する。
かなり顏色がよくなり頭痛はストレスがかかってもほぼ消失する。百会にツボを変更したのは、気逆咳(一度出ると止まらなくなる咳=肝の高ぶり)のため。
現在も治療継続中。
(考察)
はじめて来院された時は、顏色は黒ずんだ白っぽい色で、目の下のクマなど心身共に非常に疲れているご様子でした。鍼をして、みるみるうちに顏色が良くなり、元気になっていかれるのがはっきりと分かりました。
若い頃の無理なダイエットなどは、多くの人が経験されているように生理が止まるなどかなりの体調の不調を伴います。東洋医学では、血の生成の中心的役割は、脾胃であると考えます。無理なダイエットの精神的な苦痛は、更に脾胃を弱める事になり血の生成にも影響を及ぼします。
また、ストレス過多で肝気が昂ぶると、血が相対的に減少します。脾胃の弱りと、肝気の昂ぶりによる血の減少が重なり、貧血で倒れるまでになってしまったものと予測ができます。
北辰会代表、藤本蓮風氏は、著書「臓腑経絡学」の中で、「体外にある物を吸収し、いらない物を排出し必要な物は身体を循環させる事を「同化と異化」又は「物質代謝」といい、この中核をなすのが「土」=脾の臓(胃の腑)である」といわれています。
患者さんは、肝気の高ぶりが亢進して、本来弱かった脾の水湿代謝に影響を及ぼしたものと考えました。その改善は、症状と合わせて、舌の腫れぼったさが締まってきた事にも現れています。
食と肝気の昂ぶりは密接ですので、肝が高ぶれば食欲が亢進し更に脾胃のめぐりを停滞させてしまいます。
考え方の転換や発散こそ脾胃を守るためにはとても重要な事なのです。
それにしても、鍼で体調を調えれば、多少のストレスには強くなり、身体にまで影響が及ぶ事は無くなるというのがこの医療の誇れるところだと考えます。
舌の先全体と縁が赤い
舌の裏(左記共初診時)
大阪市在住 女性71歳
主訴:関節炎(頚部、手関節、手指関節、膝関節、足関節など多数)
初診日:平成22年9月初旬
(現病歴)
数ヶ月前からボランティアなどで心身共に無理をしていた時、7月梅雨明け後、急に気温が上がってから様々な場所がズキズキと痛み出した。はじめに痛んだ場所は、手の第一関節(左薬指、右小指)で、朝一時間ほど手がこわばり、左手首が赤く腫れてくる。病院では関節炎と診断され、痛み止めの薬を服用。
7月下旬に右の膝中央~徐々に外側に痛みが移動し、整形で水抜きを2回する。階段を上がるのが一番辛い。
8月から左の頚も痛み出す。レントゲンで骨が飛び出ていると言われ首吊り6回。足首~足甲(左>右)も痛くなり階段も一段ずつしか上がれない。痛み止め、接骨院での首吊り、電気治療を施すも改善されず、9月に入って、上記の症状が悪化したため来院される。
(その他の症状)
・今年2月に胃がもたれ、胃カメラ検査。ピロリ菌除去の抗生物質を服用。
・体重減少(10年の間に16キロ(特に今年に入り)やせて現在44キロ)。
・便秘(薬使用)
・夜間尿3回。
・外反母趾(左>右)
・汗がほとんど出ない。
関節炎に対して
(緩解因子):さすったり、動き出すと楽になる。
(増悪因子):長く立っていたり歩いたり掃除機かけた時。
(その他の問診事項)
飲食:口渇あり。冷飲を好む(冬も)食べ過ぎる傾向あり。
生理:42歳で閉経。
(特記すべき体表観察)
舌診:舌背(紅(右前半分)・色あせ(左半分))瘀血様有り(下記写真)
脈診:一息4至半、滑・弦・左尺(やや虚)
腹診:大巨(全体的に虚軟、特に下焦)
ツボ:右太白虚、督脉圧痛(陽関、神道、筋縮の順)右志室微冷感(特に右脾兪の虚顕著)、太衝実熱感顕著
(診断と治療方針)
証:肝鬱熱痺(標)、脾虚(本)
東洋医学では、関節炎などリュウマチ様の痛み(ひどくなると腫れ)の症状を「痺症(ひしょう)」という概念で捉える。様々な段階があるが、ここでは、痛みは熱によって起こっていると考える。その熱は、ストレスが過多になり過ぎて肝鬱(肝気の滞り)を起こした事と、夏の暑さが重なった事が考えられる。患部に熱感がある事、便秘傾向、冬でも冷飲好む事からも明らかである。
しかし、関節が痛むようになった背景には何らかの弱りがあることが考えられる。ここでは、脾胃のツボの反応や、ひどい外反母趾(東洋医学では肝と脾胃のアンバランスから起こるとしている)、体重減少などから脾の臓の弱りが背景にあると思われる。
つまり、脾虚が肝に乗じ、「木乗土」(もくじょうど)となり痺症が生じる原因となったと考えた。
よって、肝の熱を冷ます治療にて痛みを取り、その後は脾の弱りをホローアップするよう治療を施す。
(配穴と効果)
初診時~3診目まで:百会
4診目~7診目まで:霊台か神道+三陰交
8診目以降:脾兪
初診時で夕方5時から朝まであった痛みは消失。
3診目に朝の手のこわばりは無くなり、治療後、舌に赤味が増す。これは、沈んでいた熱が表面に浮いてきた事を示してあると考える。6診目、鍼を抜いた後、(神道から)少し出血する。(熱が出血により除かれたいい傾向)
8診目には痛みは全体的に緩和した為、脾兪穴にツボを変更する。
(考察)
暑かった夏に汗をかけず身体の内に熱を溜め込んでしまい、熱痺(ねっぴ)になったものと考えられます。熱痺は、炎症が関節に起こし痛みがきつくなります。実際、患部をさわるとかなりきつい熱感がありました。(下記写真)このように痛みがひどい時は熱を除去する治療に専念しますが、いつまでも同じ治療(瀉法といって強い鍼)を続けていけば今度は、弱っているところが助長されます。
患者さんの年齢、体表観察でのツボの反応を診て治療の加減をしていくことは非常に大切です。
北辰会代表、藤本蓮風先生は、著書「鍼灸医学における実践から理論へパート2」の中で、「「正邪が共に存在するという事は、例えば虚を中心に治療を行っていくと、今度は邪実が盛んになってきます。・・その時期をみて、あるときは正気を補うことを中心に、あるときは邪実を中心に下す。このように治療方針をたてないといけない。」と言われています。
1本の鍼だからこそ虚実、寒熱をしっかり判断して
慎重に治療をしていく必要があります。
初診時の手の腫れ
治療1ヵ月後
初診時の舌
治療1ヵ月後の舌
兵庫県在住 女性 発症時27歳
主訴:耳鳴り
(現病歴)
平成22年10月5日ごろから両側の耳鳴りが発症。
薬でしのいでいたものの、11月中旬ごろには薬の効果もなくなり鍼灸治療に切り替える。
来院時は、左耳のみ耳鳴り。耳閉感も伴いテレビの音が響くようになる。耳鳴りの音は始めはボーンという低音だったが、現在キーンとした高音の耳鳴りがする。
特に、お昼ごろ高音がひどく、夜はボンッという低い音も聞こえる。
耳鳴り発症前は、絵画や陶器製作など多忙で、ひどい肩こりも伴い左脇の方まで痛くなる事もあった。
(既往歴)
2歳:腸炎(熱性けいれん)→癲癇(てんかん)夏の暑さで発作を起こし易い(現在治療中)。
17歳:ヘルペス。
20歳:卵巣摘出(術後1年後に生理が来る)。
(飲食など他の主な問診)
飲食:鳥のから揚げなどが好物、間食にポテトチップス、甘い物を食す。
大小便:多忙になると便秘傾向、残便感あり、尿勢・尿切れ共やや悪い、時々尿漏。
生理の状況:生理痛あり、生理前気分が様々変化する、生理中便秘、胸がはる、頭痛など。
口内炎が出来易い(下歯茎)、目が疲れる、爪が割れやすい、足が冷える。
(診断と治療方針)
小さい頃の熱性痙攣、口内炎が出来易い、緊張時や夏などにてんかん発作が出易い事などを考え、体質は熱傾向であると思われる。
その上、緊張時のてんかん発作、肌理(きめ)の細かさ(細かいほど敏感)などから神経過敏でデリケートな体質と察する。
上記の熱性と神経過敏な体質をベースとして、今回の耳鳴りは、主に高音であることや、多忙で運動不足になっている時に発症していることから、肝気の高ぶりが昂じた事が原因ではないかと思われる。それが肝と表裏である胆経の経絡上に気が走り、耳鳴りが発症したものと考えた。
肝の高ぶりは、舌先のきつい紅点や顔面の青白さ度合い(顔面診)、脈状(弦)、腹部の緊張状態などの体表観察からも明らかである。
治療は、週2回。1診目~11診目まで後谿穴。(5診目のみ照海穴)
(治療経過)
6診目には耳鳴りはかなり改善する。
7診目からは全く起こらなくなり完治。
(考察)
彼女の肌理(きめ)の細かさは抜群で本当に美しい透き通った肌です。
これは、東洋医学では神経の過敏さと関係し、鍼の太さや置鍼時間にも考慮する必要があります。過敏ゆえ効き過ぎてしまい、後で非常に疲れたりすることもあるからです。
藤本蓮風先生は、著書「臓腑経絡学」の中で、「肌がきめ細かいか粗いかは、その人の感受性の度合いに比例する事が多い。特に肝鬱傾向(緊張状態を示す)がひどく、更に肌目が細かい人は、最初から過敏な治療は絶対してはいけないことを暗示している。これは、感覚を主(つかさど)る肺気が、あるいは魄気(はくき)が関係するからだと考える」と言われているとおりです。
五蔵の中で肺の臓は「魄(はく)を蔵する」といって、肺が動くのは魄があるからとされています。
このような人は、頑張り過ぎるなどして、緊張状態が続いたりすると、様々な症状が特に上焦(上部)に起こりやすい傾向にあります。(てんかんも含めて)
この耳鳴りも、根をつめた事と運動不足から、肩が非常に凝り、耳に影響したものと思われますので、散歩などを普段から継続し、気が上がり過ぎないようにすることが大事です。
彼女は、耳鳴りが完治したことをとても喜んで下さり、才能を生かして自作の絵葉書を私とスタッフに書いてくださいました。(下記に掲載)
「癒しの達人」とのもったいない言葉を頂きましたが、実際、鍼灸治療の効果は単に身体のみでなく「心」、または、心の奥の「魂」の領域をも動かすことが出来る本当に優れた治療なのです。
癒しの達人
みんなへ配慮すてきです
守口市在住 来院時14歳 男子
主訴:偏頭痛(特にこめかみ、側頭部)
初診日:平成22年9月下旬
(症状・環境などの経過)
2週間前から今まで無かった頭痛が発症する。
閉所恐怖症のためMRIに入ることが出来なかったため、CTスキャンで検査するも異常はなく薬を使用。薬効果無し。
現在受験のため運動クラブを引退し、塾に週4回通う。塾ではあまり痛くならないが、学校では痛む。
どちらかと言うと遊んでいる時よりじっとしている時の方が頭痛は頻繁に起こる。また雨の日も頭痛は酷くなり最近痛みで学校を休む時がある。
(その他の症状)
・冬乾燥して身体が痒くなることがある。
・緊張したり、風邪を引くと下痢になり易い。
(特記すべき体表観察所見)
脈診:1息4至半、弦滑脈、力有り、幅有り。
舌診:暗紅色(全体的にやや色あせ)、舌先強い紅色、苔白
穴状態:右外関冷、太白左冷、太谿左冷、照海左冷、背中こそばくて触診困難、左心兪虚中実など。
腹診:右脾募~胃土まで邪実、左天枢。
(診断と治療方針)
証:肝脾不和証
東洋医学では頭痛の原因を10種類ほどに分類している。
この頭痛は、運動クラブを止め、受験勉強や将来の進路を考える中で発症している。運動を止めたことによって気が緩まず緊張状態になっていたところ、受験勉強などのプレッシャーが肝気を更に高ぶらせる結果となり偏頭痛が起こったものと考えた。
肝気の高ぶりは、背中がこそばくて触れない、閉所恐怖症、腹診の邪、舌の紅点などに現れている。
また、頭痛が側頭部やこめかみあたりの胃の経絡上にある。普段から緊張すると下痢をし易い体質であることから、肝気の高ぶりが脾の臓(胃腸)に影響を与えたと思われる。脾の臓の原穴である太白穴などの反応や舌上の苔の厚さ、雨の日に悪化する事(脾の臓は湿気を嫌うため)からも証明できる。このような肝と脾の関係を「肝脾不和証」と呼ぶ。
(治療結果)
心兪穴に5番鍼で15分置鍼。(1診目~6診目まで同治療)
1診目:頭痛が1ヶ月近く楽になる。
2診目:(1ヵ月後来院)雨の日に頭痛発症し学校を休む。
3診目:治療後6日間、頭痛は無かったが1回だけ起こる。
6診目:以降頭痛は風邪を引いても起こらなくなった。
(考察)
東洋医学での肝というのは、肝臓を含む肝の機能を指します。肝の臓は「五行」で言えば「木(もく)」にあたります。
北辰会代表、藤本蓮風先生の著書「臓腑経絡学」の中に「木というのは、上下にのびのびと伸びていく。
この事を「条達(じょうたつ)作用」という。これは肝の臓の持つ自由に伸びようとする、あるいは外へ発散しようとする性質を示したものである。
精神的圧迫によってこれらが出来ないと、肝の臓を傷ることになり肝気鬱血(肝気が滞る状態)や疏泄障害(気のめぐりが悪くなること)を起こし、様々な病証を生じていくのである」といわれています。
閉所恐怖症もまさしく、心身共に伸び伸び出来ない状態が続いたことにより、狭いところにじっとしていられなくなるのです。
1回の鍼で頭痛がかなり改善され、6回の診察で完治しましたが、養生指導として歩く等、よく身体を動かすようにアドバイスをしました。
実際、じっとしている時に頭痛が酷くなることからも、運動は気を巡らすためには必要です。しかも10代と若い上、今までスポーツで発散させていただけに、運動は必要不可欠です。薬のみの処方では胃の弱い人なら尚更、根治するのは難しいと感じます。
西宮市在住 初診時54歳 女性 音楽家
主訴:肝機能障害後の心疾患を伴う更年期障害
初診日:平成22年3月初旬
(現病歴)
今年1月末、突然の発熱(38℃)と共に胃がムカムカする症状を伴い病院にて検査を受ける。肝機能数値が非常に高く、即8日間の入院となる。入院してから入眠剤を使用して何とか4~5時間の睡眠がとれるが、薬が無いと途中で覚醒するようになる。
現在、両方の肩甲骨が痛く、胸が絞られるように苦しく重くなる。少し動いただけで息切れがするため仕事が出来ず鍼灸治療を開始する。
(更年期の症状)
2年前から生理がストップする。(ホットフラッシュ無し)
昨年5月から体調に変化があり、気分がすぐれず身体が重くなったため、9月からホルモンで生理を起こす。元気になったが今年1月入院してから一切の薬を中止した。
退院後、突然上半身が逆上せて汗をかくようになった。
(既往歴)
高校2年から:ぎっくり腰など腰痛多数回。
49歳ごろ:副鼻腔炎。
32歳:声帯ポリープ手術。
体重減少(1年で14キロ減):中性脂肪が高かったため食事制限と、便通をよくする薬を使用してから。
今年8月:胃炎(仕事のストレス)
(家族の病気)
実父:心筋梗塞で他界。(63歳)
(特記すべき体表観察)
舌診:淡暗紫、色あせ、白苔。
脈診:弱のため触診が困難。
原穴診:陽池虚(右>左)太白左虚、太衝・衝陽右虚中実。
背候診:右肝兪実(酷い硬結)、左心兪実、右心兪虚。
腹診:全体に虚軟特に下焦(臍の下)の著しい虚、右肝相火
左脾募冷感強。
(診断と治療方針)
証:(標)心気陽虚証。(本)肝鬱気滞証。
心身ともに多忙な生活を長く続け、肝気を常に昂ぶらせていたところ、昨年5月、身体が重く調子が悪くなると共に、中性脂肪が高かったため急激な食事制限をした。
更に更年期によるホルモン療法で無理に生理を来させるなどする。
これらにより、肝気実(過剰なストレス)から、心気虚~心陽虚(虚とは弱りの意味)に転化し、更年期時期に心疾患を伴い体力のみでなく精神的にもやる気が無くなったものと思われる。
この「心の臓」の重症度合いは、殆ど赤みが無く、淡い紫色るで潤っているなどの舌診に明らかである。且、脈が殆ど触れず、更年期障害による逆上せ時の汗が冷たくダラダラとかく。これは東洋医学では、心陽(心臓の陽気)が非常に弱っている事を示し重篤な状態にあることを示す。
東洋医学での負荷試験(北辰会による)においても、少し動くと動悸がし、入浴数分で疲労感が増すなど、虚(弱り)が大きい(心の気虚)と考える。
心臓の陽気を高めるために陽池に多壮灸を施し、胸苦しい症状と共に舌診、脈診、浅黒い顏色が赤みを持つことを急ぎ、それらを心の陽気回復への効果判定とする。
(選穴)
週3回の治療を施す。
1診目~:陽池左右の灸(多壮灸)
右熱さ弱い。+肝兪。
5診目~:陽池左右の灸、時々気候が寒いときに
+関元灸、公孫または、心兪に15分置鍼。
29診目~:陽池左右の灸、照海。
35診目~:灸を中止、天枢に20分置鍼。
(経過)
5診目ごろから少しずつ元気が出て起きてられるようになる。
12診目ごろからホットフラッシュの回数が減少。
17診目から数時間の仕事を開始できるようになる。
38診目ごろから脈がはっきり取れるようになり、歩行時の息切れが無くなり、丸一日元気な日が出てくる。
舌診:淡紫色から淡紅色~暗紅色、顏色に赤みが出るなど回復所見が見られた。
(考察)
重症な状態でしたが、薬を服用することもなく鍼灸治療のみで現在毎日元気に働けるまでに回復されました。
お父様を心臓疾患で亡くされており、途中何度も弱気になった事も。また少し元気になると無理をし、心臓の圧迫感で苦しくなる症状の繰り返しでした。
北辰会代表藤本蓮風先生は、著書「経穴解説」の中で、「陽池という穴処は、西洋医学でいう強心剤のような働きをします。したがって、おしっこが出にくい時、脾腎の陽気が弱ったり、あるいは湿困脾土みたいな形で、水邪の停滞するものに効果があります。」と言われています。
実際、陽池に灸をすると尿の出が良くなり、心気・心陽が回復してきたことはその顏診、脈診、舌診、そして腹診にも明らかに現れました。(下記写真:しっかり力強く出せるようになる。)
現在も週1回、治療に来られていますが、今まで何度も繰り返していた腰痛も起こらなくなりました。このように、肝気の昂りが高じると、「心(しん)の臓」に影響が及びます。同書の中で「心(しん)を調整すれば、五臓が安定する」と言われている通りです。更年期頃は特に、よく散歩しリラックス時間を持つように養生を心がける事が必要です。
12月10日舌背