主訴:不妊症
西宮市在住 女性 34歳
初診日:平成22年9月初旬
(現病歴)
29歳で結婚してからも、システムエンジニアの仕事に従事。毎日深夜までパソコン数台を使用しながら夕食もコンビニなどで済まし仕事をしていた。
翌年、仕事を辞め婦人科を受診すると、橋本病との診断を受ける。薬を服用しながらも3年前より人工授精を10回連続して試みるも一度も着床せず。体外受精に切り替える。
体外受精2回目でようやく着床するも流産となる。
子宮内膜症やチョコレート膿腫、ポリープ等が見つかりポリープは摘出。基礎体温は高温期は有り正常。
1ヶ月間、体調を整えてから体外受精に再度挑戦されるために来院される。
(特記すべき問診事項)
・電車でも酔い易い。
・よく便秘になる。
・最近ストレスで下痢することがある。
・肩が凝る。(背中まで)
・足が冷える。
・間食でポテトチップスを食す。
・生理痛2日目、生理前イライラと過食。
★上記の問診から肝気の欝滞(気の流れがスムーズに行かない状態)は、横逆し、脾胃(胃腸)に影響を及ぼしているものと考えられる。
(特記すべき体表観察)
舌診:暗紅色、苔白膩苔、舌先赤い点々多数、歯痕(舌の縁がレース状)
脈診:1息4至、滑大脈、右関尺に枯弦脈、脈力脈幅有
腹診:右脾募、肝の相火、胃土、少腹急結。
原穴:太谿(右>左)虚、左衝陽実、右太衝虚中実、左照海虚、右臨泣実など。
背候診:背中の上部熱感、左志室冷感、命門熱感、神道圧痛、左心兪から膈兪実、右心兪虚中実。右肝兪から胃兪実熱など。
★上記の情報からも肝気の鬱結(滞り)と脾胃(胃腸)
の弱りが考えられ、プラス腎の弱りもややみられる。
(診断と治療方針)
過酷な仕事を続けていたことにより、肩凝りが増すなど肝気の流れが滞りやすい状態にあった。そこへ不妊治療などで精神的にもストレスが増し、更に肝気が欝滞し易くなった。
子宮内膜症やポリープなどは、肝気の欝滞が長期にわたるとでき易くなり「瘀血(おけつ)」という形をとる。
腎の弱りは多少は見られるものの、肝気の高ぶりに対して相対的に腎が弱っている可能性が高いと思われる。
よって、肝気の滞りを改善すると共に、まず、精神的な安定をはかるため、安神作用のある心兪穴を使用する。
(治療経過)
初診時から11診目まで:心兪穴
★ここまでで足が温かくなり、生理前のイライラが改善される。10月に再度採卵するが卵巣が腫れている為、受精は見合わせ
12診目から21診目まで:太衝穴
22診目から36診目まで:後溪穴
★25診目に鍼灸治療をして始めての体外受精。無事妊娠に成功し現在順調に成長。つわりもほとんど無し。8月に出産予定。
37診目から43診目まで:脾兪穴
★便秘がひどかったためツボを脾兪に変更。現在も週1回治
療中。
(考察)
鍼灸院には沢山の不妊症の方が来られていますが、「先
生、陽性反応がでました!」との明るい声を聞く事が何よりの喜びです。しかし、安定期に入り、そして勿論お子さんの顏を見るまでは油断できません。お母さんの心身のバランスが乱れていたり、弱いお子さんは、流れてしまいます。
不妊治療を試みられている患者さんの精神状態は、人によっ
て違いはあるものの、神経過敏になりやすく肝気を欝滞させ
てしまいます。肝気がスムーズに流れていてこそ相対的に弱
っていた腎気も充実し胃腸の状態も整います。
東洋医学では、身体に留まらず、心神の状態をも非常に重視
して治療にあたっていきます。しかし、まずは身体のバラン
スを整えていくことが先決と考えます。それは、身体の調子が良くなれば精神状態も自然とよくなるからです。
この患者さんも生理前のイライラなどが改善され、身体を整
えることにより精神のバランスも安定しています。
また、肝気が脾胃に横逆しやすい体質で、つわりはひどいことが予測されましたが、ほとんどつわりも無く順調に過ごされています。ご本人が、趣味でマラソンなどにも挑戦され、妊娠後もウォーキングなどで身体を動かしていた事も非常に興を奏していると思われます。
これからも、妊娠中、お腹のお子さんと健やかに過ごされ夏にお元気に対面されますよう、治療をしっかりさせて頂きます。
主訴:右大腿部痛(前面から外側)
西宮市在住 53歳 男性
初診日:平成22年12月中旬
(現病歴)
母親の介護中、身体を持ち上げた瞬間から主訴が発症。
右大腿部前面痛、特に大腿部外側が刺すように痛み赤味も伴う。その後、母親が12月に亡くなり介護が不必要になってから痛みと赤味はましになるが、走る事は出来ず、歩行時や、つま先立ちをすると下から上に向かって痛みが走る。
主訴発症時は、咳が出るなど風邪気味だった。
また元々、両膝(右>左)外側の軟骨がすり減っている。
痛みは、寒いときはひどくなり、入浴などで暖めるとましになる。
(既往歴)
大学時代:よく便秘をするようになり、吹き出物に膿を持つ事が多かった。(食事も油物、肉食が多かった)
30代後半:右耳鳴り(ゴーっという低音。たまに耳聾)
40代半ば:糖尿病といわれ、ウォーキングで10キロ減量。
昨年夏頃:仕事が多忙を極め、右耳の耳聾(聞こえにくい)
昨年秋頃:母親の介護開始。回転性のめまいが起こる。
(その他の問診事項)
飲料水:冷飲好む、飲酒はビールを毎日。
大小便:色臭い共に有り、夜間尿1回から2回。
歯肉が腫れ易い、口内炎が出来易い、抜け毛白髪多いなど。
★上記の情報から、湿熱体質と共に、腎虚が考えられる。
(特記すべき体表観察)
脈診:1息4至半、滑弦脈、尺位右弱、脈力有り。
原穴診:左太淵、神門、太谿、照海虚。右太白虚、左太衝虚中実。左臨泣、衝陽、合谷実。
舌診:暗紅、白膩苔。
背候診:神道、筋縮、命門、腎兪など反応有り。
★上記の体表観察からも腎の弱りと、肝鬱気滞(ストレスなどによる気の滞り)の反応がみられる。
(診断と治療方針)
口内炎が出来易い、膿みやすい、便秘で尿便共に臭いや色が濃い事などを考え、体質的に「熱」傾向である事が考えられる。「熱」は陽邪であるため、陰邪である「湿」と結びつき湿熱という形をとりやすくなる。それは歯肉が腫れ易いことなどからも窺える。
また、年齢的にも下焦(腎・膀胱)などが弱る時期の上、両膝の軟骨がすり減る、たまに耳聾(耳が聞こえにくい)など腎の弱りが見られる。
このような中、多忙な仕事と共に、母親の介護のため疲労が重なり、肝気が鬱結(うっけつ)しやすい状態にあった。
大腿部の特に外側の刺痛は、丁度足の少陽胆経が流れているところであり、肝気の鬱結がひどくなれば肝経と表裏である胆経に影響が及びやすい。その上、腎が弱っている事から下部にある大腿部の痛みとなったものと考えた。
治療は、痛みが下から上に走ることから、上部への配穴避け(悪化する可能性があるため)足の少陽胆経の足臨泣穴を選穴する。
初診時~2診目:右足臨泣穴 5番鍼 15分置鍼。
★右の大腿部の痛みが取れ、膝の外側のみ痛む。
3診目~5診目:滑肉門 5番鍼 25分置鍼。
★風寒邪(風邪)のため上記にツボを変更。
★現在11診目。痛みは消失し調子もいい。
(考察)
数回の治療により痛みが緩和されてよかったです。
患者さんは、体質や生活環境などから足に痛みを発症しましたが、回転性のめまいや耳聾、口内炎なども同時に改善されるものと考えます。
西洋医学では、これらは、整形外科や耳鼻咽喉科、内科などそれぞれを受診しますが、東洋医学では、身体全体のバランスの不調和を診るため、足の痛みを切っ掛けとしながらも他の症状も緩和する事が可能です。
(勿論、問診を含め症状の原因が明確であってこそ)
北辰会代表の藤本蓮風先生は、常々、「正気がしっかりしているかどうかが病治しのポイントである」と言われています。正気(邪気に抵抗する力)がしっかりしていてこそ、病に抵抗することが出来、病に打ち勝つ事ができると考えるのが東洋医学です。
鍼1本で痛みがとれる北辰会方式の素晴らしい鍼を多くの人に体験していただきたいです。
西宮市在住 34歳 女性 一般事務
主訴:坐骨神経痛と不妊症
初診日:平成22年2月27日
(現病歴)
30歳を越えた頃からぎっくり腰が度々起こるようになる。2回目のぎっくり腰では整骨院に数か月通院するが、すっきりと治らず、左坐骨神経痛も発症。
昨年夏ごろストレッチ中に股関節を痛め坐骨神経痛が悪化。同時に左足のむくみや冷え性も出現する。両腰も脹って痛く、子宮の辺りにも冷えを感じるようになった。
入浴で温める、ゆっくりとした運動をする、仕事など集中している時などは痛みがましになり、疲れが溜まった夕方や生理前は冷えがきつくなり腰痛も悪化する。
また子どもを欲した数年前からなかなか授からず、昨年から不妊治療を始める。妊娠したいこともあわせ来院される。
(既往歴)
22歳ごろ:胃潰瘍
30歳ごろ:バセドウ氏病(約3年間薬を服用)1年前完治。
(その他の問診事項)
・甘いもの(チョコレートなど)をよく食べる。
・口の渇きなし、温飲を好む。
・尿回数1日10回。
・ドライアイ、充血、眼精疲労。
・口内炎ができ易い。
・生理痛有り、生理前過食、生理後身体全体が軽くなる。
・ホットヨガとウォーキングで腰痛が増しになる。
★上記の問診事項から、肝気の高ぶりから腎の臓が相対的に弱っていることが考えられる。
(特記すべき体表観察)
舌診:紅色舌、やや乾燥、舌尖が赤く点々が多数、白く厚い苔有り。
脈診:一息4至半、滑脈、脈力有り。
原穴診:手足のツボの状況:左合谷、左衝陽、左太衝が実、左照海が虚。
背候診:左心兪実、右心兪・右肝兪から脾兪まで虚中の実、上部の熱と下部(関元兪・小腸兪)の冷え、神道の圧痛。
腹診:胃土、左脾募、右肝相火の邪。
★上記の体表観察から、肝気の高ぶりは、胃と腎に影響を及ぼしている可能性がある。
(診断と治療方針)
証:肝鬱気滞証(かんうつきたい)> 腎虚証(じんきょ)
腰などの下部は実際に冷えているものの、肝気の高ぶりを抑えれば下部が温かくなるも
のと考える。それは、舌の尖端の赤みや紅点の多さ、また、背中の上部の熱感と下部の
冷えの状態などからもうかがえる。
芯からの冷えなら、舌の色は色あせた淡い赤になったり、脈はこのように有力にはなり
にくい。また、肝気の高ぶりを証明する要素として、ウォーキングなどで腰痛がましに
なり、生理後も身体が軽くなる。ツボの状態などからも、これらは、腎の弱りが中心ではなく、肝気の高ぶりが中心と考えられる。
よって、上がり過ぎた肝気を下げる事を中心とした治療方針とする。
姙娠も腎が大きく関係するが、肝を中心に治療すれば腎も強化され腰痛も緩和。上下のバランスがとれると考える。
1診目~6診目まで:百会左 5番鍼 15分置鍼
★ここまでの治療で腰痛、坐骨神経痛はほぼよくなる。
7診目~14診目まで:後溪穴 3番鍼 20分~25分置鍼
15診目~16診目:数日後人工授精のためツボを変更。肝兪 25分
17診目~百会、後溪、脾兪のうち1つ。
★人工授精2回目で無事成功する。6週目。
28診目~33診目:照海穴 3番 20分置鍼
★順調に3月中旬出産予定。
(考察)
腰痛を切っ掛けとして来院されましたが、妊娠にまで至り本当に喜んでいます。
東洋医学では、腎と肝は、妊娠にとって非常に重要な臓腑です。
腎の弱りは、頻尿などの尿の問題、腰痛、精力減退、白髪、物忘れなどの老化現象として現われ、肝の高ぶりは、舌の先の赤みや紅点、イライラ、肩こり、目の充血などなど首から上の症状として現れやすいです。
肝か腎、どちらが中心なのか、また、肝の高ぶりの強さによっても妊娠のし易さ難しさは決まってしまう場合があります。
患者さんは、肝が中心だった故に、妊娠にいたるまで肝と関係のあるツボを選び治療をしていきました。出産も間近になり、また腰痛が発症しましたので今度は、腎を中心とした照海というツボを選穴しました。
今後、出産により多少腎を痛め、子育ての忙しさでまた肝が高ぶることが予測されますので、鍼で時々体調を調える事をお勧めします。赤ちゃん心から楽しみに待っています。
主訴:不妊症
西宮市在住 31歳 主婦
初診日:平成22年2月中旬
(現在の状況)
25歳で結婚したが妊娠が認められず、2年後婦人科へ行き検査を受ける。無排卵月経と診断され、生理5日目から3日間クロミットを服用する。
ご主人は精子の運動量が弱いと言われる。基礎体温は正常。
人工授精を7回から8回試みる。内1回だけ陽性反応が出たがすぐに流産となる。最後に不妊治療を行ったのは、5ヶ月前。今年に入ってから一瞬フワッとするようなめまいが起こる。
(その他の症状)
・5年前:眼圧が高い。
・3年前:B型肝炎。
・結婚してから8キロ増。
・両肩がこる。
・運動後腰痛が起こる。
★上記の情報から肝と腎のバランスの乱れが見られる。
(その他の問診事項)
・生理前に甘い物が欲しくなり、のどが渇く。
・口内炎が出来易い。
・足が冷える。
・熟睡感無し。
・運動したり、入浴(30分~40分)でのぼせる。
★上記の情報から上部の熱、下部の冷えが見られる。
(特記すべき体表観察)
舌診:淡紅、舌先に赤い点多数、舌先が地図状にめくれている。
脈診:滑脈、右尺位が弱い。
穴診:左太白虚、左照海虚、右太衝実、右肝兪から三焦兪まで実熱、神道圧痛、左志室冷
空間診:百会、懸枢、臍共に左上。
★体表観察からも肝と腎、上部の熱と下部の冷えなどの上下のアンバランスが考えられる
(診断と治療方針)
証:腎虚証・肝鬱気滞~やや化火証
不妊には様々な原因が重なっているが、東洋医学では「腎の臓」が大きく関わる。
腎は先天の元気といい「生まれ持ったエネルギー」を指し、「生殖」とも関係が深い。
また、腎が弱ると様々な臓腑に影響を及ぼすが、特に、相互に影響を及ぼすのが肝の臓である。肝気の過度な高ぶりは腎を弱らせ、またその反対も然りである。
これは、主に上(肝気)と下(腎虚)のアンバランスを引き起こす。
この患者さんの肝気の高ぶりは、舌先の赤い点々やツボの肝兪・神道の反応など、肝に関係するつぼに多く見られ、腎は左の腎兪の外方、志室の冷えや照海の反応からも明らかである。実際肝炎などの症状もあり、その肝気はやや進んで熱化傾向(運動、入浴でのぼせることや舌の先の赤みがきつい事など)にもある。
我慢強い性格で、ストレス(肝気の高ぶり)を発散するのが苦手な傾向で、肝の高ぶりが顕著であったため、肝にアプローチする治療とする。
治療穴(ツボ):百会 左 5番鍼 10分置鍼
1診目~14診目まで:肝兪(舌の色があせていたので変更)
15診目~25診目まで:天枢(排卵したので変更)
26診目~27診目まで:太衝
28診目~29診目まで:三陰交(生理が来ないため変更)
30診目~38診目まで:脾兪(生理が来たため変更)
(治療結果)
38診目で妊娠が判明し、現在31週目に入り順調に成長している。
(考察)
たんたんと治療に通われ、このように早く妊娠に至り非常に喜んでいます。
勿論途中つらい思いや焦りなどあったにも関わらず、鍼灸を信じて下さった事に感謝します。つわりも軽い方で、現在も治療に通って下さっています。
腎に関する記載の一部を藤本蓮風先生の「臓腑経絡学」の著書から抜粋させていただくと「女性の不妊症、男性の問題でも起こるが、これらの多くは腎が関与しているという事がいえる。また子どもが生まれつき虚弱なのも腎の力が弱い事が多い」
「腎に注目し、両尺位の脈、特に右命門の脈がしっかりしているかどうかがポイントである」「体表観察で大腸兪穴、腎兪穴、志室あたりが陥没していれば、腎の弱りとみてよい」
このように腎の問題と妊娠は深く関わります。
このケースは、肝気の高ぶりが腎の機能をおさえていた可能性が高く、肝を緩める治療が効を奏したものと考えます。
4月下旬に出産予定で現在順調に成長しています。
赤ちゃんのお顏を見るのが心から楽しみです。
西宮市在住 男性 36歳
主訴:むち打ち症(2年前の交通事故後の左肩甲骨~左脇、左胸部の痛みと重だるさ)
初診日:平成23年2月初旬
(現病歴)
バイクを運転中に剣道の道具を持参した歩行者と接触。
左肩を強打し右前方にスライディング。左足背剥離骨折、左手関節橈骨ひび割れ、前歯が折れる等の怪我をする。
雨の前の日には主訴と同じ場所に重だるさを感じ、接骨院にて局所鍼を施すも変化なし。昨年の12月上旬ごろからひどく痛み出し、左に首を側屈すると上腕に痛みが放散。痛みや重だるさが常時続くようになり、以前治療されていた奥様のご紹介にて来院される。
(増悪因子):ホッとした時、仰向けで寝ているとき、雨の降る前に痛みが増す。
(緩解因子):仰向けで右首を側屈すると少しましになる。
(その他の特記すべき問診事項)
・飲み物は温飲を好み、口の渇きはあまりない。
・小便の尿勢、尿切れやや悪く、尿漏れがたまにある。
・手足が冷える。
・熟睡感なし、小さな音でも目が覚める、一度目が覚めると 眠れない。
・最近営業の仕事で飲酒の機会が増えた。
・よく扁桃腺炎を発症する。
・ここ半年間運動はしていない。
★上記の問診事項から「上半身の熱、下半身の冷え」。あるいは、「上半身に気が偏り、相対的に下半身が弱っている」可能性がある。
(特記すべき体表観察)
舌診:暗紅色、白苔、裂紋有り(舌上の亀裂)
脈診:1息4至、滑脈、脈力幅とも有り。
ツボ:右臨泣実、右合谷実、左太衝熱感と実、左上部背中のツボ(風門から肝兪まで)熱感で実、胃兪右虚、筋縮圧痛。
腹診:胸膈が狭い、左胃土邪、左脾募、左肝の相火実。
★以上の体表観察から、胃の弱りがあるところ、肝の昂ぶり(ストレス)によって更に胃に負担がかかっている状態。
(診断と治療方針)
交通事故で身体の上部を打撲し、肝経(経筋)と胆経(正経・経筋)という経絡が通っている場所を強打したものと思われる。
また、剥離骨折した足の足背も肝経のツボのある重要な場所で、2年前の事故にも関わらずツボに熱感が顕著に見られた。肝経は、身体の気血をめぐらせる為に中心的な役割をする経絡で、ここを強打したことにより気の流れが滞り易くなったものと考える。(気の交通渋滞状態といえる)
それも上部打撲のため上に気が偏った状態となった。
このような状況の中、昨年からの多忙な日々が重なった事で益々肝気が上がったものと思われる。
つまり、左の上部に気の流れが偏った状態となり、それが痛みや重だるさを引き起こしたと考え、左上の気を通じさせる為に、下の肝経のツボを使って上に上がった気を引き下げる方法をとった。
(配穴と治療経過)
1診目~4診目:太衝(左側) 5番鍼にて15分置鍼。
★日に日に効果が現れ、4診目には種々の痛みが殆ど無くなり、顕著に改善が見られた。
(考察)
肩の痛いところを治療点にするのではなく、局所では無いところや、上に気が傾いているものを下から引っ張って降ろす方法をとるほうが、より確実に治癒することは北辰会方式の治療においては頻繁にみられることです。
ついつい痛いところをもんだり叩いたりしたくなりますが、東洋医学では、上の病には下を考え、右の病には左を考える等など、いかに全体の気のバランスを取るかを考えて治療をします。痛い所のみを追いかければ全体が見えなくなります。
また、なぜこのように数年後に痛みが増悪するのかという事を生活の中にその原因を見つけていきます。
患者さんは、上記のように多忙な生活を続け、運動不足になったことで更に気を上に上げてしまったことが理由と考えられます。
更に、今回の痛みを切っ掛けとして、身体のバランスを見る中で、患者さんは比較的胃が弱く、ストレスがかかると胃に負担がかかると思われます。東洋医学は、「未病治」が特色です。今後に起こるだろう病の根を今のうちに断ち切っておく事ができる治療なのです。
肩の痛みは5回の治療で完治しましたので、今後、体質改善のために月1回来院される予定です。
北辰会代表、藤本蓮風先生が長年かけて編み出された「1本鍼」の素晴らしさを、これからも多くの方に実感して頂きたい思いでいっぱいです。