症例

2016年08月17日(水)

関節リュウマチ(痺証) [膠原病]

今年2月に「関節リウマチ」が主訴で来院された60代女性の症例です。

【症状】
約15年前の更年期辺りから疲労感と共にカゼをよく引くようになり、その頃から上半身の関節や両足首が腫れ出しリュウマチの診断を受ける。服薬でましになるが、昨年からの復職を機に、左膝外側や足首の腫れと重だるさが出現し歩行困難になる。
リウマチ数値は高く、シェーグレン症候群も併発。

【随伴症状】
・もともとふっくら体型で、便秘傾向。
・長年仕事・家事・ボランティアなど多忙な日々が続いており常に睡眠不足。
月経前に関節が腫れ、月経後に治まるのを繰り返していた。
甘味好きで、食べ過ぎて胃もたれ。
雨天時、身体が重い。
・2年前 肺癌で肺一部切除。

【増悪因子】
スターティングペイン(ジッとしてから動かし始める時に痛む)
膝関節を伸ばす
冷え
雨天前

【緩解因子】
温める(入浴やカイロを患部に貼る)
雨天時

【病因病理】
証:肝鬱気滞〜湿邪偏勝(着痺)

物静かな患者さんですが心に闘魂があり日々我慢強く生活されておられるように感じます
我慢が昂じると緊張になり、実際その緊張を緩めるために甘味の物を多く摂取されています。

そのような生活が継続すると、体内に湿邪が形成され雨天時に身体が重くなります。
その上、緊張のため便秘することで湿邪が降らないばかりか熱邪となり、その湿熱邪が関節等に停滞し易くなります。

リュウマチ発症時に風邪をひきやすくなる等、衛気(体表の気)も弱ることで、簡単に外邪(気候変化)の影響を受けやすく、気機の流れを更に阻害しやすい状態になったことでリュウマチが発症したと思われます。

【治療方法】
肝鬱の気を巡らせることで湿邪の停滞を除き関節の腫れと痛みの緩和を目指します。

気機の巡りに深く関与する合谷の虚側を使用することにしました。合谷の虚のツボが修復することによって、気の巡りを正常に戻すことが目的です。

【治療と経過】
1〜3診目まで合谷を補うと腫れと痛みがみるみるうちにひいていきました。

合谷の左右差が消えてからは、数回後渓で心神を安定させ、次に天枢で長年のストレスからくる脾の弱りを改善していきました。

杖も使用せず歩けるようになりました。さらに、手のこわばりや夜間尿も無くなり、足裏のタコまで消えてしまいました。


【まとめ】
関節リウマチを東洋医学では「痺証(ひしょう)」といいます。リュウマチ反応が出ていなくても関節が腫れる等の症状は「痺証」という概念で診断していきます。

『素問・痺論』には「風寒湿の三気まじわり至りて合して痺と為す」とあります。痺病が久しく癒えず反復外邪に感じれば進行して臓腑の正常な機能に影響することを指摘している。と言われています。(東洋医学鍼灸ジャーナルVol22 参考)

症状そのものは実のように見えても、繰り返し起こる等の長患いは基本的に裏に虚があると考えます。虚があれば外邪にも感受しやすくなります。更年期や出産後に発症している患者さんが多い事からも分かります。

この患者さんの虚は肺癌等も患っている事からも衛気の弱りと脾の弱りがウエートを占めているように思います。

また実際に痛むところを手で触ってみて熱感や冷感などを感じる事が大切です。この患者さんの場合は奥の方にやや熱感はあるものの冷感が中心でした。この冷感自体は湿邪停滞による冷えだと判断しました。

更に、リュウマチの発症状況変化も重要です。当初は体の上部中心の関節に出ていたものが、下半身中心になり、下半身の中でも膝から足首に痛みが下がったとなれば、下半身のツボは出来れば使用しない方がいいと思います。病を下へ引っ張り痛みを加速させる可能性があります。

経絡からどの臓腑が病んでいるかを探っていき四診合参して診断していくことの大切さを感じました。




2016年07月27日(水)

一過性意識障害 [神経内科]

昨年10月に「一過性の意識障害」が主訴で来院された30代女性の症例です。

【症状】
約1年前夏頃から1年の間に突然意識が無くなり外出先で倒れる事7回(数時間意識が戻らず)。加えて、月経前に帰宅直後、玄関先で意識を失う事が毎月のように起こり、月経中(特に一日目)は外出先で意識が無くなる。

【随伴症状】
・立ちくらみ、フワフワとした眩暈(地に足がついていない感じ)と動悸。 

・食欲減退、嘔気(嘔吐なし)

・後頚部の張りがひどく首の回旋不可(左右共)。

・便秘と軟便を繰り返し、排便後栄養が全部出る感じがして疲労感が増す。(以前は便秘傾向)

・往復40分の徒歩通勤で疲労感。ビタミン剤を服用してお昼動ける。

・無汗(入浴時、運動時も)。入浴後息切れ。

・寝つき1〜3時間かかる、多夢。

【増悪因子】
肩こり〜頭痛時、疲れすぎた時(月経前と月経後1週間に疲労感増悪)

【緩解因子】
肩こりに関して:1〜2時間横になる、頭頂部の指圧。

【病因病理】
この患者さんは、様々なストレスがあっても中々発散することが苦手で内にこもってしまうタイプです。発散できないと、(肝)気の巡りが停滞してしまいます。

彼女の場合は、慢性肩こりが悪化してから発症していますので、肝気の停滞が体の上部に起こりやすい傾向にあります。地に足がついてないと感じるのもこのためです。

更に、悶々とした悩みが継続すると、脾胃に影響がでます。それは、食欲不振や便秘や軟便からも分かります。

脾胃は気血生化の源と言われているように、脾胃の弱りが継続すると栄養不良になり気血が不足し、貧血症状等が現れます。月経中の動悸や疲労感等からもわかります。

そして、血が不足すると、精神が不安定になったり、不眠になり易いです。不眠になると血を養えず更に不安感が増すという悪循環に陥ります。

月経中に発症するのは血虚(不足)のためで、月経前に発症しているのは、子宮に血が集まって髄海(脳)に血が不足するためと考えました。脈や舌、その他ツボにもそれらの反応が表われていました。

よって、証は、肝気上逆<心血虚証による意識障害として治療していきました。

【治療と経過】
1診目は打診を使用して、上に上がった気を下す治療をしました。2診目以降は、後渓を中心に、血を補いつつ上の気を下げ精神を安定するように治療していきました。
時々、配穴を三陰交に変えたり、脾兪を補ったりしていきました。

4診目ごろからよく眠れるようになってきました。強いストレスがかかると不眠になり、胃痛(空腹時痛は胃酸過多傾向→胃気逆)が生じます。

現在まで週1回の鍼治療を始めて2か月後の年末と春3月の2回倒れましたが、春は月経前でしたので、月経前には詰めて治療するようにすると、倒れなくなりました。

現在治療継続中です。経過は良好で多少のストレスがかかっても月経時でも倒れなくなりました。

【まとめ】
一過性の意識障害を東洋医学では「暈厥(うんけつ)」と言います。
『症状による中医診断と治療』では、「突然に意識が消失して四肢(手足)が冷え、一定時間の後に覚醒して、失語・顔面神経麻痺・半身不随などの後遺症を伴わないこと」とあります。

このような意識障害の症状には、鍼治療の効果大です。ただ、弁証分型も上記の著には6つ程挙げられており、多面的観察をしっかりして総合的に判断する必要があります。

また、その時点での証だけでなく、病因病理を把握して病の流れをつかむことが重要です。

実際この患者さんも、初めは虚>実を中心に治療していきましたが、治療過程で右内関というツボに熱を持って張ってきたり(沈んでいたツボが浮いてきたと考えます)、細脈が弦脈に変化したりしてきましたので、

治療戦略を変える(実>虚)必要があります。よって百会や督脈等実側のツボを時々使用しています。

身体からしっかり治療していけば多少のストレスにも強い心神になり根治できると考えます。









2016年02月24日(水)

不妊症 [不妊症]

【主訴】不妊 39歳女性
【初診】平成27年2月

【現病歴】
結婚して4年後(平成26年)に初めて妊娠し、心音も確認できたものの約2ヶ月程で稽留流産により掻爬。流産後は、精神的ショックが大きかったが、約1ヶ月後に月経が再開し徐々に気分も回復する。
10年前から子宮筋腫3センチ大が数個あったが徐々に大きくなり数も倍増。不妊治療には抵抗があり、鍼で身体を整え妊娠したいとの事で来院される。


【その他の問診事項】
・20代ギックリ腰2回
・冬は月経周期が遅くなり、頻尿
・30歳すぎ〜ほぼ毎朝両手指が浮腫み動かしにくい。
・30歳すぎ〜疲労時やストレス時右耳鳴(高音)耳閉感。
・ストレスで寝付きが悪く多夢。
・運動しても足は冷える。
・月経前イライラ・過食・乳張・頭痛。月経後消失。


【各種弁証】
八網弁証:
裏 (表証所見なし)、
虚寒 (腎陽虚)
実 (肝鬱気滞証、衝脈気結証)


臓腑経絡弁証:
<肝鬱気滞>…月経痛、月経時の乳房脹痛、月経前のイライラ・肩こり・便秘、朝両手が浮腫み動かすと治る、ストレスで過食、ストレス時高音耳鳴り、
脈滑弦、重按+、右肝の相火、顔面肝抜け、合谷R実・L虚熱感あり、太衝L実・R虚中の実で熱感あり、後渓R虚中の実、両(右>左)肝兪実。

<腎陽虚>…足冷、冷えると頻尿、冬に月経が遅れる、経血薄く減、冷えると尿漏れ、温飲好み少量、長年の右耳閉感、腰痛、気海、太巨、両志室冷え、照海L虚、右尺位やや硬い脈、舌胖大歯根有、舌色あせ湿潤、顔面腎の白抜け。

<衝脈気結証>…子宮筋腫、少腹部の脹痛、冬月経後期、乳房脹痛、流産経験有、
太衝L実、R熱感、公孫L、三陰交R実、照海L虚、


【正邪弁証】
入浴後、二便後、運動(ヨガ90分)後、月経後に身体が疲れずスッキリする事や、気滞により様々な症状が出ていることから、全体的には実証と考えます。虚は、上記のように腎の陽虚所見が多く見られ、運動等、気滞がとれても冷えは除去されないことから、陽虚を意識しながら治療をすすめていく事にします。


【チャート図】

画像(250x94)・拡大画像(640x241)

(チャート図上をクリックしたら大きくなります)


【病因病理】
七情不和(過剰ストレス)により肝気の昇発作用や疏泄作用が阻害され、気の巡りが悪くなり、肝鬱気滞から、血瘀(子宮筋腫)が形成されたと思われます。子宮筋腫等、下焦(下半身)に気が停滞しやすいのは、下焦の弱りと共に腎の陽気不足も重なったためと考えました。ストレスにより肥厚甘味の過食が継続すれば、脾を弱らせ、脾と腎が互いに補い合えなければ腎虚がすすみます。

また、生殖機能は衝脈が主っています。この衝脈に不足や不通が生じれば妊娠しにくくなります。患者さんは、肝経の気滞が衝脈に影響し、月経不順・痛経・乳張などが生じ、更に腎陽虚による陰寒の邪が不通を助長させ不妊に至ったものと考えました。

【治療方針と治療】衝脈解鬱・疏肝理気(衝脈は肝経と密接なので肝の疏泄作用を高める治療方針とします)

1診目:後渓(右)→右肝之相火緩む。
2診目:申脈(右)→右耳自閉感マシに。右鼻から血混じりのドロってした鼻水が出る。
3診目:後渓(左)→耳閉感消失。
5診目〜8診目:三陰交
9診目〜42診目:太衝 →27診目から8日間タール状の黒便が大量に出る。
42診目で妊娠陽性反応。

43診目〜47診目:太白灸 →不正出血の為。
48診目(8週目)〜88診目:後渓、申脈、太衝、照海のいずれか。(風寒時は外関)
    

【治療結果】
上記の通り、3診目には耳閉感が消失する等、鍼の効果が早くから現れました。当初はご自分の体調や不妊に関してかなり神経質に悩まれ、眉間にいつもしわを寄せておられましたが、治療するたびに明るくなって本来のご自分の性格に戻られました。

足も温まり腎陽虚が改善されてきたばかりでなく、27診目から黒い便が8日間ほど続き、瘀血が下ったようです。その後、すぐに妊娠されました。妊娠後も鮮血少量出血がありましたが、これはバックにあった脾の弱りからくる統血作用の低下と見立て太白の灸を施し改善されました。

また、大きな筋腫の為に定期的に大学病院で検査を受けられていましたが、59診目の検査では筋腫が壊死していたようです。
赤ちゃんも順調に育っており、後少しでご出産です。

患者さんは、赤ちゃんの姿の無い時から出産まで鍼治療を受けられ、本当に楽しい妊娠生活を送られていました。間もなくお母さんになられる彼女は、もうすっかり明るく逞しい女性に成長されました。鍼を信じて本当に頑張って通ってきて下さいました。心から感謝いたします。スタッフ共々可愛い赤ちゃんに会えるのが楽しみです。

2016年02月01日(月)

梅核気(喉の閉塞感) [耳鼻咽喉関係]

【主訴】梅核気(喉の閉塞感)43歳女性
【初診】平成27年6月下旬

【現病歴】
約1年前の2月、喉のつまりと口渇が出現(この頃、毎年ご主人の転勤の辞令が決定する頃で過度に緊張している)。過去にも2回、同様の症状が出現する。痰(透明)がいつも喉にからみ、常時ゲップがでて口に苦みを感じる。嚥下には影響なし。
数か月後の春、食後に胸やけが伴うようになり、食欲減退。体重は4キロ減少する。ジョギング中にも吐き気がでるようになりジョギングを止める。

【増悪因子】
何もせず、ボーっとしている時。(過去2回の喉のつまり感は強ストレスから)

【緩解因子】
起床時、目標があって動こうとする時、忙しい時

【その他の問診事項】
・雨天前、頭痛。
・出産後月経痛減少。月経前イライラ、月経後体調は良、主訴は不変。
・足が冷え、冬はこたつから出られない。
・口の中にピリピリした痛み、場所は日によって変化、口内炎出来やすい
・幼少期、扁桃腺炎で高熱出し、小学校時両扁桃腺切除。
・40歳に副鼻腔炎発症。
幼い頃から迷子になる夢をよく見る
・目の充血。
・主訴発症前に萎縮性胃炎になる。

【各種弁証】
八綱弁証: 裏(表証所見なし)、実(肝気上逆証)、上熱下寒。
臓腑経絡弁証: 肝:月経前イライラ、春季に発症、顔面診肝白抜け、舌辺剥げ、舌尖紅、弦脈、太衝、肝兪、胆兪、合谷、肝之相火右等の反応。

【弁証】肝気上逆証




【チャート図】    

画像(320x260)・拡大画像(640x520)

【病因病理】
過去に2回ストレスから同症状が起こっていますが、今回は、ご主人が単身赴任から戻ってくると分かってからの発症です。毎年春に、ご主人の転勤の有無でハラハラされる等、緊張もピークになっていたところ、嬉しさで肝気が上ったものと思われます。日常の過食や不安感等から胃に負担をかけていたため、普通は下降する胃気が逆に上がり曖気(ゲップ)が止まらなくなっています。
また、鍼治療の予約を入れた時から症状がやや改善されていることからも、症状に対する安心感から肝気(緊張)が緩んだためと思われます。したがって、この喉の閉塞感は、七情に起因する肝の疏泄機能失調により、肝気が上焦(喉)で鬱滞したものと考えました。


【治療方針と治療】疏肝降気(肝気を巡らせて気を下げる)

初診から6診目:太衝
8診目から10診目:後渓
11診目から14診目:太衝
15診目から20診目:後渓

【治療結果】
5診目には当初10だった主訴は2に軽減されました。痩せたと言われる事に対するショックもあり、6診目には食べ放題に行かれていますが、主訴の悪化はありませんでした。不安感も無くなり20診で治療は終了しました。

東洋医学では、この喉の閉塞感は梅核気といって痰と気が喉で結びついて発症すると考えますが、肝の疏泄機能が正常に働けば痰も巡り散ります。今回は気>痰の梅核気と考え、肝気を中心に治療し功を奏しました。日常的に多く見られる疾患です。

また、増悪因子に、何もせずぼーっとしている時を挙げられていますが、じっとしているため気が廻らない事での悪化と共に、ご本人の真面目な性格からも何もしていない事への罪悪感が緊張に繋がっていると思います。

ご両親共に小さい頃から厳しいご家庭に育った方は、往々にしてこのようにダラダラしている自身に対して罪悪感を持ちやすい傾向にあります。夢も小さい頃から迷子になる夢をよく見られてることからも、根底には自信が無く、ご主人等頼る人が側にいないと精神的に不安感が増すのだと思います。

日常、運動等で発散しながら、少しずつ心身を解放し自信を持たれる事で、ご本人の真面目な性格が良さとなって発揮されると思います。

2015年12月16日(水)

卵巣嚢腫による不正出血と下腹部痛 [婦人科系疾患]

【主訴】卵巣嚢腫による不正出血と下腹部痛
【患者】40代 女性
【初診】平成27年3月

【現病歴】2年前、左下腹部激痛と不正出血が1か月続いたため、病院に行くと両卵巣に嚢腫が見つかる。鎮痛剤を1日3回服用するも緩解せず右卵巣を摘出。術後腹部の激痛は緩解したものの、術後から生理不順になる。(生理周期延長、出血量の増減、月経が10日以上続き貧血で動悸や立ちくらみが起こる等々)。
また、左下腹部痛(しくしくした重い痛み)が月経後から次の月経まで続き鎮痛剤を1〜2回/日内服する。月の殆どは鎮痛剤を服用している状態にあり、医者から左の卵巣手術を勧められるが断り鍼灸院に来院される。

(月経状況)初潮時から生理痛有(1日目から2日目)。下腹部刺痛。血塊なし(手術前は血塊多)、生理前にイライラし、月経後落ち込む。月経後は貧血症状が出て疲れ横になりたい。月経前軟便、月経中普通便、月経後は兎糞状便(便秘薬を内服)。

【その他の症状】
・卵巣嚢腫摘出術後から、下肢が冷えやすい、重だるい腰痛、むくみ(顔>下肢)、のぼせ(夕方疲れた時と冬に多い)、考え事で不眠になる。
・不妊治療を試みるが卵子が出来ない。

【弁証】
脾不統血証・気滞血瘀証

【各種弁証】
八綱弁証;裏(表証所見なし)、虚(脾不統血)、実(気滞血瘀)

臓腑弁証;
脾不統血:不正出血が少量でダラダラ続く、薄い赤茶色、生理前軟便、月経後の脱力感と落ち込みや気分低迷。雨の日は体が重だるく腹脹し易い、帯下(水っぽく多量、臭い痒み無)、緊脈(初診時月経13日目)、胖大歯根有り、淡白舌、白二苔、両太白〜公孫の虚(右>左)、右脾兪虚。

気血津液弁証;
気滞血瘀:月経前にイライラし月経後緩解、月経痛刺痛、血塊有り、ストレスで便秘。舌腹に数個の血腫有り、太衝、三陰交、肝兪反応有り、少腹急結(左)。

正邪弁証;
正気虚(ダラダラ続く不正出血、月経後横になりたい、運動で疲労感増、舌色褪せ、やや胖嫩、脈左2指押し切れる)
邪気実(入浴後や排便後に身体がすっきりする、月経前イライラ、脈力あり)
不正出血は正気の虚メインで、卵巣嚢腫は邪気実と考えるも、正気虚の状態から、邪気実の瀉法は慎重に考える。

【病因病理】
患者さんは、幼い頃から考え事で寝つきが悪く、環境変化で便秘する等神経質な性格だったようです。また中学生の頃から月経痛が酷く鎮痛剤を服用し続けていた為、胃がシクシク痛むことが多い上、肥厚甘味の食を好み、脾胃に常に負担をかけている状態でした。


脾胃が弱いところ、仕事でも人一倍頑張り肝気を高ぶらせる生活が続いたことで、月経痛が増悪し下焦に湿痰や瘀血が形成されたものと考えました。実母も子宮の病であったことからも下焦の弱りが似ていた可能性もあります。右子宮摘出後、腰痛やむくみ、冷え等が出現したことから下焦に負担をかけた可能性もあります。

不妊治療も試みられますが、採卵が出来なかった事からも、気血生化の脾胃が弱り、月経時の多量出血や瘀血等から血虚傾向になり、妊娠に必要な肝腎の陰血不足を招き、衝任(衝脈と任脈)を滋養できず不妊になったものと考えました。
以上の事から脾の統血作用が低下し不正出血が出現したものと思われます。


【治療方針】
益気健脾>疏肝理気(化瘀)

正邪弁証から、不正出血は正気の虚メインで、卵巣嚢腫は邪気実を考えましたが、正気の虚を先ず補い、邪気実は正気虚が改善に向かってから瀉法を加えて散らす方針とします。

【治療と結果】
1〜5診目まで:公孫穴(虚側)
6〜9診目まで:脾兪(虚側)
10診目 蠡溝
11診目〜12診目まで 後渓
13診目:太白整えの灸11壮
14診目〜19診目 後渓
20診目〜26診目 太衝
27診目〜後渓(現在も継続)


初診から脾の弱りを補う為に虚側の公孫と脾兪を補うと、ダラダラ続いていた不正出血が止まったため、補血と心神安定の目的で後渓を使いました。

途中、10診目の蠡溝(れいこう)は、左の子宮自体に熱感があり患部が痛んでいた為、肝経で子宮に繋がるツボで熱感を取りました。即効性がありました。
13診目の太白のお灸は、少し出血した後、疲労感があったため益気を目的に使用したものです。

脾の気(健脾)を補う治療で不正出血は殆ど止まりましたが、子宮のジクジクした痛みがあり鎮痛剤を服用されてました。治療を進めるうちに身体が軽くなり、15診目頃から殆ど鎮痛剤を使用しなくてもよくなり、月経も一週間で終わるようになり、仕事にも復帰されました。
まだ無理をした時は腹部が重くなったり、月経痛も出現しますので治療継続中ですが、月の殆ど鎮痛剤漬けの生活から、殆ど鎮痛剤を使わなくても良くなり鍼の効果を実感して頂いています。

肝、脾、腎と言えば最も肝腎要の臓です。この三者が身体の中で連携して健康を維持していると言ってもいい程です。

患者さんはこの三者のバランスを大きく崩して病が発症しましたが、常にこのバランスを調整しておけばお母さんと同じ病に倒れる事はありません。

この未病治が東洋医学の凄いところでもあります。





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